【創作】「rain」【BL】
紙袋を抱えたレインが部屋に戻ると、ルーク少佐が手持ち無沙汰にキャビネットを眺めている。
「すみません、遅くなりまして」
「いえ。こちらが勝手に押し掛けているのですから、お気になさらず」
レインは机の上に散らばったままの書類を脇に寄せ、紙袋の中身を並べた。
「適当に買ってきましたが、駄目な物があったら言ってください」
「却って気を使わせてしまったようで、申し訳ありません」
代金を払おうとする少佐を押し留め、二人で買ってきた物をより分ける。
「少佐は、何故AI研究に興味を?」
コーヒーを啜りながらレインが聞くと、ルーク少佐は首を傾げて、
「意外ですか?」
「そうですね・・・・・・あの、皆さん、表面的なことは聞いてきますが、ここまで深く知りたがる人は、研究者以外にいません。テレビを買う時に、中の配線まで聞かないでしょう?」
レインの例えに、少佐はふふっと笑った。その笑顔が、思いの外子供っぽく見えて、レインはコーヒーを取り落としそうになる。
「大丈夫ですか?」
「あっ、だ、大丈夫です」
あわあわとコーヒーを机に置いていたら、「兄のことを、知りたくて」と言われた。
「お兄さん?」
「はい。家庭用ロボットですが、私にとっては兄なのです」
ルーク少佐が語る思い出話に、レインは引き込まれる。何度か、家族同然の扱いだという話を聞いたことはあるけれど、今、目の前で改めて話されると、不思議な気持ちだった。
家族に憧れがあるのだと言う少佐の気持ちが、レインには分かる。自分も、家族が欲しかった。雨のこちら側にいる「家族」が・・・・・・。
資料の続きを纏め終えたレインが、印刷してルーク少佐に渡した時、タイミング良く定時の鐘が鳴った。
「間に合わなくて、ごめんなさい」
「いいえ。これは宿題にしますから」
少佐の言葉に、レインは一瞬躊躇ってから、おずおずと切り出す。
「あ、明日、も、来られますか?」
「ご迷惑でなければ」
「ああ、はい。勿論。貴方とお話しするのは楽しいです」
それは、本心からの言葉だった。
自宅に戻ったレインは、寝室で雨の音を聞きながら、ベッドに身を横たえる。
家族、か・・・・・・。
同性の自分では、ルーク少佐の家族にはなれないなと考え、自分の考えに飛び起きた。
「い、いやいやいや! 何言って!!」
慌てて否定すると、またベッドに倒れ込む。自分が同性愛者だと自覚した時から、何度も諦めてきたではないか。まだ懲りないのかと、自分に言い聞かせた。
大体、向こうは仕事で来ているんであって、個人的な感情なんてないんだから・・・・・・。
レインは掛け布団に潜り込むと、余計なことを考えるなと念を押す。辛い思いをするのは自分なのだからと。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ