ジレンマ
第三話 展望台
私は展望塔に来た。学校の裏にある山とも呼べないような小さな丘の上にある展望台。この学校の生徒は全員、存在は知っていても足を向ける事はまずない場所。
ここに来た深い意味なんてない。ただ、町へ出るのが怖かった。人に会うのが怖かった。ただそれだけだ。
私は生まれて初めて犯した過ちに舞い上がっていたのだろう。2段飛ばしで展望台の螺旋階段を駆け上がる。地面が遠くなる。私の気持ちもどんどんと空へ近づいていった。
最期の1段を蹴ろうとしたところで、私ははっと胸を突かれた。そこには人がいた。
私と同じ木更津高校のセーラー服。髪は金色に染められ、耳にはピアスをつけている。錆び付いた床に制服の汚れなど全く気にせず、仰向けに寝ていた。
私はゆっくりと1段足を降ろし、駆け下りようと思った。誰が見ても関わってはまずいと思うだろう。
その瞬間、スカートなのを全く気にしない様子で、その金髪女は跳ね起きた。
「がんがん登ってきて起きない人の方が珍しいよ」