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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 「そうそう。
 大勢が暮らす避難所で、衛生対策が、緊急に必要になったというお話です。
 被災から一週間ほど経つと、実態の把握が急務になってきました。
 避難所における衛生状態や生活環境。感染症などの有無を調べるために、
 全国から派遣されてきた医療チームと、地元の医療チームがひとつになり、
 『石巻圏合同救護チーム』が発足しました。
 医師と看護師さん5~6人を1組にして、20個ちかい班をつくりました。
 手分けをしながら、3月17日から3日間かけて、
 300ほどあった全ての避難所の、実態調査をしました」


 「避難所だけでも、300ヵ所も有るのですか!
 自主避難している人たちも含めれば、数字はもっと大きくなります。
 把握するだけでも、たいへんな作業になりますねぇ」


 「市役所や行政支所も、被災していますから大変です。
 行政機能は麻痺したままで、情報網も寸断されています。
 そのため避難民たちの把握が、いつまでたっても進みません。
 避難所の一番の問題は、食料や生活物資が決定的に不足をすることです。
 避難者に1日に1個のおにぎりしか、出せなかった避難所もあります。
 衛生管理は、何処の避難所でも行き届きません。
 感染症が、まん延する危険性が高まってきました。
 『給水車の水は、もったいなくて手洗いには使えない』とか、
 『消毒用のアルコールはすぐになくなってしまい、必要な時に使えない』
 と言う声が、たくさん寄せられてきました」


 「道路が寸断されてしまったため、孤立してしまった避難所も、
 沢山有ったと聞きました。
 全国から救援物資は届いているのに、避難所に届ける手段が無くて、
 運ぶのに四苦八苦したというお話も聞きました・・・」

 「その通りです。
 避難しているのは見えているのに、そこへ辿りつくための道路が無いのです。
 がれきを撤去しながら、道を伸ばしていくだけで精いっぱいです。
 最初のうちの避難所生活は、多くの人が着の身、着のままで逃げ出したため、
 劣悪そのものといえる状態でした。
 ほとんどの避難所で、プールの水で手を洗ったり、着替えがないために、
 泥だらけのままの着衣で、生活している状態です。
 多くの避難所で、消毒薬がありません。
 感染症の患者が出たとしても、狭すぎて隔離するスペースが作れません
 このままでは、手遅れの状態が進むばかりです。
 行政や政府からの支援も、いくら待っても、被災地には届きません。
 行政の支援を、当てにできなくなりました。
 避難所へ必要な物資を届け、生活環境を急いで改善することが
 私たちの、当面の大きな仕事になりました」


 浩子の脳裏に、必死にあちこちを駆け回りながら、被災者や患者たちと
向かい合ってきた、あの日の光景が鮮明によみがえって来る。

 「チームの働き掛けで、簡易水道や間仕切りなどが設置された
 避難所もあります。
 渡波公民館には、マスクや消毒薬などが届くようになりました。
 その結果、病院に搬送される避難者は、姿を消しました・・・・」


 本震から27日目となった4月6日。
石巻赤十字病院に搬送される急患の数が、初めて100人を下回る。
本震から60日目後となった5月9日。
ようやくのことで、急患の診療体制から解放されて、通常の診療が
再開されることになる。

 しかし、地道な医療活動は今もなお引き継がれている。
今でも有志の医療班が、石巻市や東松島市の避難所や住宅など約100カ所を
日々、巡回している。
今も変わらず、被災者たちの健康管理のために献身的に活動している
医療グループが存在する。