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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 「病院の外も大変な状態でしたが、病院内はもっと騒然としています。
 待合室になっている1階ロビーでは、診療室が足りないために、
 中レベルの患者さんの処置を行いました。
 雑然としていて、まるで映画で見た、戦場の救護所みたいな有様です」


 「震災の当日よりも、日を追うごとに怪我人が増えたと聞いています。
 要救助者たちがどんどん増えていったようですが、それにはいったい
 どんな理由があるのですか?」


 「患者さんのほとんどが、津波による被災者です。
 被災した人たちが救助を求めて居ても、水が引かないうちは近寄れません。
 瓦礫が散乱しているため、道路も通れません。
 受け入れる側の医療機関も、救助する側の救急隊や消防も、
 同じように被災しているのです。
 あの時。海に面した石巻の市街地のほとんどが、壊滅状態になりました。
 かろうじて高台に避難できた人たちも、見守るのが精一杯で、
 救助まで手が回りません。
 外部からの応援部隊が入るまで、被災した市街地部分では、
 手のつかない状態が続いていたのです」


 「たしかに。凄まじい津波の映像に、私も息をのみました。
 あっというまに海面が盛り上がり、大きな波が押し寄せました。
 車が木の葉のように押し流され、家やビルが呑みこまれて崩壊していく
 様子を、私は何度もテレビで見ました。
 多くの犠牲者が、津波によるものと聞いています」


 「震災から3日後の14日に、被災した患者さんたちの数が
 ピークに達しました。
 ロビーで、担架やストレッチャーが忙しく行き来します。
 その日だけで700人近くが、石巻赤十字病院へ搬送されてきたのです。
 病院内は、救助された患者さんたちでごった返しました。
 スタッフたちも、汗だくで駆け回りました。
 2階の廊下も、避難場所代わりにしている人たちが、たくさんいます。
 何処へ行っても、足の踏み場がないほど雑然としています。
 ロビーに運ばれてきた患者さんも、けがや低体温症で自力では歩けません。
 病院が用意をした80台の災害用ベッドでは間に会わず、
 入院患者用のマットや、外来診察で使うベッドなどへ患者を
 収容しました。
 とにかく忙しすぎて、全員がてんてこ舞いをしました・・・・
 あの時は、何かを考えるゆとりが、全くありませんでした」


 「野戦病院のようだったという意味が、よくわかります・・・・」


 「トリア―ジが済むと、治療班の応援のために駆けつけます。
 津波にのまれた人の着替えや、応急処置の手助けにも追われました。
 収容されてから、急に高熱を出すお年寄りなどもたくさんいます。
 付き添う家族もなく、身元も分からないまま病院内で、
 息を引き取ってしまった人も、少なくありません。
 何とかしてあげたかったのに・・・・
 でも私たちには、何も手助けが出来ませんでした。
 辛かったし、虚しかった。そしてとても悔しい思いをたくさんしました。
 私が記憶しているだけでも、地震後の1週間あまりで
 石巻赤十字病院で治療を受けた患者さんの数は、4000人を越えています。
 そのうちに・・・・残念なことですが、手当ての甲斐もなく
 79人が病院で亡くなっています」


 響が身体を横にずらし、浩子に寄り添うような形で座り直す。
「あなたは本当に、優しいお嬢さんですねぇ・・・・」愛嬌のあふれていた
浩子の目じりに、またうっすらと、新しい涙がにじんできた。