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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 「えっ。連れて行って頂けるのですか、叔父さんのところまで!」

 思わず金髪の英治が立ちあがる。
そんな英治のあわてぶりを見て、浩子がにこやかに笑う。

 「当然でしょう、それくらいのことは。
 あなたたちは行方不明の方を探して、はるばる関東からやって来たのです。
 3・11の大震災で私たちは、全国のみなさんから生きる勇気と元気を、
 たくさんいただきました。
 あの悲惨な状態の中からこうして今、元気でいられるのも、
 日本全国からの、温かいご支援のおかげです。
 そのことを考えたら、このくらいのお手伝いはお安いご用です。
 ささやかなお礼返しです。
 それにこちらの笑顔の可愛いお譲さんとも、もう少しだけ、
 お話がしたいと思いますから」


 (あらら、やっぱりお話し好きの、人の良いおばちゃんだわ・・・・)
響きもまた、嬉しそうに眼をほそめて笑う。
運転が苦手だと言う浩子に変わり、金髪の英治がハンドルを握る。

 「高速も使えますが、急ぐ旅でもないでしょう。
 田舎の一本道ですので、ひたすらまっすぐに走ってくださいな。
 一時間とすこしのドライブになると思います・・・・
 私は後ろでお嬢ちゃんと、おしゃべりに励みますから、運転をよろしく。
 頼りがいの有りそうな、金髪のお兄さん。うふふふ」


 助手席へ荷物を置いた浩子が嬉しそうに、響が座っている
後部座席にもぐりこむ。


 「ところで、お兄ちゃん。
 道の途中で、コンビニさんが有ったら、車を止めてくださいな。
 やっぱりお茶菓子が無いと、お話も盛り上がりません。
 それではくれぐれも、安全運転でお願いします」

 後部座席から乗り出した浩子が、ポンポンと英治の肩を叩く。
浩子の愛車は流行の、ハイブリッド・カ―だ。
スタート時のエンジン音は、きわめて静かだ。
モーターが静かに回り、車は滑るように前へ進んでいく。
小気味よい加速ぶりは、あっというまに60キロの制限速度へ達していく。
それでも車内にエンジンの音はまったく聞こえず、風を切る音だけが
心地よく耳に響いてくる。


 「3・11直後の石巻の病院は、まるで野戦病院のようだったと、
 回顧録などで、読んだ覚えが有ります。
 でもそれは、本当のことなのですか?」

 「津波の直後から、医療の現場で大混乱が始まりました。
 海に面していた市街地のほとんどが、津波による被害を受けたためです。
 医療機関も、ほとんど同時に大きな被害を受けています。
 奥地に有った私たちの日赤病院だけが、かろうじて被災をまぬがれたのです。
 医療活動についての詳細は、その後に刊行された『石巻赤十字病院の100日間』
 という本の中で、くわしく紹介されています。
 東日本大震災で献身的に活動したお医者さんや、看護師たち、
 病院職員たちの苦闘の記録を、文章としてまとめたものです」


 「浩子さんも、その中のひとりとして活躍されたわけですね。
 申しわけありません。私はまだそちらの本を読んでいません。
 被災地の実態を理解をしていない、不心得者の一人です」


 「あなたは、とても正直でチャーミングな方ですね。
 普通なら、そんなことはとぼけてしまうのに、正直すぎます。
 別に気にすることでは、ありません。
 貴重な記録ですが、重くて辛い記録であることも事実です。
 生きるためのたたかいが、体験談をもとにつづられていますが、
 同時にまた、おおくの死を見つめてきた記録でもあるのです。
 災害の記録と言うのは常に、生と死の境目を、冷酷に見つめます。
 一瞬の行動が生死を分けます。
 環境と運も、そのときの生死を左右します
 あの日の津波はまさに、想像を絶するものでした・・・・」


 「浩子さんはあの津波で、どんなことを体験してきたのですか?」