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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 「人為的ミスや、人が犯しやすい失敗と記憶しています。
 確か・・・・『意図しない結果を生じる、人間の行為」
 と規定されていたと思います。
 設備や機械の操作、乗り物の操縦などにおいて、事故や災害などの
 不本意な結果が生まれた時に、つかわれます。
 『人災』と呼ぶ場合もあります。
 安全工学や人間工学において、事故原因となる作業員や操縦者の
 故意や過失などのことを指す・・・・と記憶をしています」

 浩子が、響を見つめてまたニコリとほほ笑む。
自分の手のひらから、さくら貝をひとつつまむとそれをそっと
響の手の上に置く。


 「大正解です。聡明ですね、やはりあなたは。
 私のとったあの行動も、やはり、トリアージにおける「人為的ミス」です。
 私は、もういちど医療の世界へ戻ります。
 おそらく。あの時と同じような現場に、また立ち会った時、
 また同じ過ちを繰り返すかもしれません・・・・」

 「被災地では、おおくの人たちが肩を寄せ合って、生きるために
 みんなで励まし合っています。
 私はこちらへ来て、その光景をたくさん見てきました。
 生きる元気ももらいました。
 さきほど語ってくれたさくら貝の話も、素晴らしいエピソードだと思います」

 まっすぐに見つめる響の瞳を、浩子がまぶしそうに受け止める。
「そうよねぇ」とほほ笑んだ浩子が、「でもね」と次の瞬間、悔しそうに
唇をかみしめる。


 「確かに東北の被災者たちは、肩を寄せ合って頑張っています。
 でもこの国には、重大なヒューマンミスが横たわっています。
 震災から1年が経った今でも、彼らのヒューマンミスが障害になっています。
 昨日と今日。被災地の様子を見つめてきたあなたに、
 ヒューマンミスの姿が、見えましたか?」

 「被災地に横たわる、ヒューマンミスですか・・・・
 どういう意味でしょう。
 たいへん興味のあるお話ですが、私には見当がつきません」


 「福島の人々は、第一原発による放射能のために、
 住み慣れた我が家を追われています。
 政府と東電の小出しの、いい加減な情報に翻弄されたからです。
 わずかな期間と思われていた避難生活が、いまだに帰宅がめどが立たず、
 仮の暮らしが続いています。
 炉心の溶解によって飛散をした放射能の影響も、深刻です。
 福島に限らず、宮城や岩手にも同じ事が共通して言えます。
 風評被害で、農業や観光業の苦戦が続いています。
 一年が経つと言うのに、国が責任を持って解決策を示さないためです。
 放射能を含んだ大量のがれきは、いまも集積所に積まれたまま、
 なすすべもなく放置されています。
 処理できたのは、全体の5%にすぎません。
 あれほど『絆』の文字を掲げて支援をしてくれた日本中の皆さんも、
 がれきだけは駄目だと、受け入れを拒否しています。
 行政や政府が『支援をあてにしないで、自力で復興をしろ』と、
 言っているからです。
 政府の対応の遅れは、とても深刻です。
 この国の政治と政治家は、後進国レベルそのものと言えますねえ。
 
 地震と津波は、『天災』です。
 しかしその後の、原子力発電所の炉心溶解と、放射能の飛散は
 あきらかに『人災』です。
 政府が押す進めてきた、原子力行政が破たんしたのです。
 誰が見ても、『人災』と言うでしょう。
 進まない復興地政策や、がれき処理の停滞などもおなじように、
 政府が手をこまねいているための『人災』です。
 今回の震災に関する限り、政府の動きは、すべてにおいて中途半端で、
 何をするにも遅すぎます。
 あらぁ、私ったら・・・・思わず力が入ってしまいました。
 被災地に住むひとりとして、少しばかり不謹慎過ぎる発言が続いています。
 過激な発言などを、つい、こぼしてしまいました。・・・・
 でもこれが、被災者たちの、偽りのない今の本音です」