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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 響の胸の中を、衝撃が走りぬけていく。
被災地に足を踏み入れた瞬間から感じていた、得体の知れないもどかしさが、
ようやくベールを脱ぎ始めた。
響の中に有るわだかまりの正体が、浩子の話を聞いているうちに、
その姿を明らかにしてきた。

 響の中に生まれていたのは、被災地への同情とは全く異なる、別の感情だ。
何処から産まれてくるのか、自覚は出来ないものの、
怒りを含んだ哀しい気持ちが、響の中で渦を巻きはじめている。


(違う。これは哀しみなんかじゃない、怒りだ。
 憤りとも呼べるほどの、きわめて激しい怒りの気持ちだ。
 私が見てきた被災地は、1年前のあの日のままだ・・・・
 がれきや、崩壊をした家々は、綺麗に片付けられているが、
 ここに住んでいた人たちがいままでの日常を、
 取り戻したわけじゃない・・・・
 おざなりすぎる原子力政策や、いっこうに本腰を上げない政府にたいして、
 私の中で、激しい怒りが渦を巻いている)


 響が自分の心の中に発生していた、得体の知れない感情の正体を
ついに、自らの手で掴み取った。


 (怠慢への、憤(いきどお)りだ。
 東日本をこんな風にしてしまった支配者への、怒りの気持ちだ。
 地震や津波は自然の脅威として、心のどこかであきらめをつけられる。
 でも安全性を高らかにうたって、稼働を続けてきた原子力発電所は、
 大津波のせいで、あっさりと、危険な存在であることを明らかにした。
 核燃料を使う原発が暴走してしまうと、誰にも停められないことを、
 全国民に知らしめた。
 原発の危険性が、ついに明らかになった。
 平和利用と言う美辞麗句では、誤魔化せない事実が目の前にあらわれた。
 核は、人間の力では制御できないと言う真実が証明された。
 アメリカ・マンスリー島の原発事故。
 ロシアの、チェルノブイリ原子力発電所の事故。
 そして、福島のメルトダウン(炉心溶解)。
 3度にわたる原子炉の事故は、人類が犯してしまった3度の
 『ヒューマンミス』だ。
 私はそのことにずっと前から気がついていたくせに、無視をしたまま、
 福島の現実を、他人事のように通り過ぎていた。
 東日本大震災と、原発の事故は、まったく別の問題だ。
 そのことにもっと早く気がつけと、私の心が、催促を促していたんだ。
 それをこの人が、浩子さんが、
 正面から、私に突きつけてくれんだわ)

 「ほら・・・・響ちゃん。金髪君が手を振ってる。
 こっちに来いと呼んでいるみたいです。
 あらまあ・・・・お嬢ちゃん、どうしたの。
 随分と怖い顔などをしていますが、なにか有ったのですか?」

 『はっ』と、響が我に返る。
激しい胸の高鳴りを抑えながら、眼差しをあげる。
ようやく見つけだした答えを胸に、響が浩子を正面から見つめる。
『おや?・・・・』と、軽い驚きを見せながら浩子も、
響の眼差しをやんわりと受け止める。

 「お嬢さん。見違えるほど綺麗で、素敵な顔になりましたねぇ。
 何かが見つかったようですねぇ、そのご様子では・・・・
 解けきれなかった宿題が、見事に解けた時のようなお顔をしています。
 やっぱり、このさくら貝には、『奇跡』をもたらす不思議な力が
 あったようですねぇ・・・・うふふ」


 「はい。
 自分がなにをすべきかを、たった今、私は見つけ出しました。
 ここで浩子さんと、このさくら貝と出会えたことに、
 心の底から感謝をします。
 神からの啓示が、たった今、私に舞い降りてきました」


 「それは良かったですねぇ。
 でもあちらには、それ以上に、神からの『ご加護』があったようです。
 隣に現れたのは、金髪君が探していた伯父さんのようです。
 よかったですねぇ。あの姿を見る限り、思いのほか元気な様子です。
 ほら。呼んでいます、2人して。
 あんなに嬉しそうに、手を振っています。
 やっぱりいいですねぇ、こういう光景が見られるのは。
 長い間、哀しいことばかりを見つめてきましたから、 嬉しい事や、
 元気な姿を見るだけで、こちらも元気になれます。
 私のほうこそ、再会を見せてもらって嬉しくたまりません。
 お節介をした、甲斐がありました。
 さくら貝、お節介、再会、甲斐があった・・・・
 あらまぁ、今日は見事に、「かい』づくしが続きますねぇ!
 まだ何か、他にも良いことが有るかしら」


 そう言うなり、浩子が、仮設住宅に向かって嬉しそうに走り出していく。
響も、あわててその後を追って駆け出していく。

(46)へつづく