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連載小説「六連星(むつらぼし)」第41話 ~45話

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 英治に声をかけた浩子が、後部座敷の窓ガラスを全開に開ける。
上を見て・・・と響に、合図を送る。

 「このあたり一帯は、12mを越える津波に襲われました。
 野蒜築港跡といい、今回の大震災と言い、
 野蒜(のびる)は100年の間に、2度にわたって大きな災害を受けています。
 お2人が乗ってきた朝のバスとは、逆の進路です。
 ということは、ちょうど海からの、津波の流れと同じことになります。
 私たちのはるか頭上を、あの日の津波が押し寄せていったのです。
 いま走っているこの道路は、津波の底の部分にあたります。
 自然の力には逆らえませんね。測り知れない力が働きますから」


 窓を開けた浩子が感慨深そうに、はるか頭上を見上げる。
浩子が説明した通り、前方に、高い場所を通過していく三陸自動車道の
堰堤が見えてきた。
(ついに来たわね・・・・英治。)響も後部座席から、思わず身体を乗り出す。

 「高速道のすぐ脇に、仮設住宅が建てられています。
 道なりに進んで、仮設住宅が見えた処で止めて下さい。
 仮設住宅は、200軒あまり有ります。
 自治組織がしっかり機能していますので、入口で尋ねれば
 伯父さんの家は、すぐにわかると思います。
 ここから先は金髪君。 あなたが一人で行ってください。
 わたしたちは、ここで、吉報を待っています」


 前方に、仮設住宅の屋根が見えてきたところで、金髪の英治が、
路肩に車を止める。
何か言おうとしている響を、浩子が目で制止する。
無言で運転席から降りた英治は、1度だけ後部座席の2人に向かって手を振る。
やがて仮設住宅に向かって、ゆっくりとした足取りで進みはじめる。


 「お嬢ちゃん。
 意地悪をする意味で、引きとめたのではありません。
 仮設に住む伯父さんも、他人に聞かれたくない事情が有るかもしれません。
 訪ねて行く金髪君にも、やはり似たような事情が有ると思います。
 まして数年ぶりの再会となれば、そのあたりの事情はもっと複雑でしょう。
 他人には聞かせたくない話なども、たぶん有るでしょう。
 黙って2人で、此処で待ちましょう。
 うまくいけば、きっと金髪くんが姿をあらわします。
 駄目であっても、その時は何も言わずに、ここから立ち去りましょう。
 身内と他人の間には、越えてはならない境界線が有ります。
 さて、お天気がとても良さそうです。
 車から降りて、表の空気などをすってみましょうか」

 
 浩子が、ドアを大きく開けた。
エアコンが効きすぎている車内へ、涼しい風が吹き込んでくる。
ひんやりとするが、寒いというほどの気温でもない。
響が降りていくと、浩子が、青空に向かって背伸びをしている。
同じように並んで立つと、響も、せいいっぱいに青空に向かって背筋を伸ばした。


 「気持ちいいですねぇ~。青空が。上手くいくといいですね。
 あなたも此処まで着いて来たからには、伯父さんと金髪君の再会が
 いい結果になるように祈ってあげてください。
 私はさっきほどから、そのことを心の底から願っています・・・・
 あっ、そうだ。ちょっと待ってくださいな。
 私の話を沢山聞いてくれたお礼に、あなたにプレゼントをあげましょう」



 浩子が、助手席に放置しておいたバッグを手に取る。
バッグの口を開けながら、車を半周して、響のとなりへやって来る。
「手を出してちょうだいな」と、にっこりとほほ笑む。
響が言われた通りに手のひらを差し出すと、浩子が、綺麗に輝く小さな貝殻を、
コロコロと並べはじめた。
幅が2cmほどの、薄いピンク色の二枚貝だ。