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弁護士に広げたかった大風呂敷

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8 戦闘開始



蒔くつもりなんて
さらさらなかった
何の種かも
知らなかった

ましてや
こんな化け物に
育つと知ってりゃ
死んでも
蒔いたりしなかった

一ときの
怒りにまかせて
ぶん投げた
離婚とか言う
物騒な種

皮肉だな
俺の庭には
よほど相性が
良かったらしい

今じゃ恐れて
誰ひとり
寄りつきもしない
訴訟という名の
化け物が
生い茂る庭

忌わしくて
おどろおどろしくて
正視すら
したくなかった
その庭に

義侠心が
向こう見ずの
服着たような先生が
やおらずかずか
乗り込んできて

男でも
体よく断る
庭仕事
無理難題の
荒仕事

四の五の言いつつ
引き受けた

今日は初日

俺が蒔いた
種から茂った
えらく不様な化け物を

先生が
勇敢にも
刈り取ってやると
請け合ってくれた
裁判という名の
その刈り取りの
まさに初日

ハンドル握る
俺の隣で
身じろぎ一つ
しない先生

何考えてる?

背負った
事の大きさに
おののいてるのか?

逃げるには
もう遅すぎると
自分に
言い聞かせてるのか?

悪意に満ちた
野次馬の目を
恐れてるのか?

庭の芝生を
元通りに
戻せなかったら
どうしようと
案じてるのか?

誰が見たって
震えてるのに
横顔だけは
梃子でも引かない
意地っ張り

その気丈さが
不憫に思えて
今すぐにでも
Uターンして
やりたくなる

守ってやるべき
男の俺が
守ってやりたい
先生に

かばわれ
守られ
支えられてる
不甲斐なさ

膝に乗せてる
先生のその
苦心の作が

寸暇を惜しんで
作ってくれた
商売道具の
書類の山が

ずり落ちかけても
気づかないほど
心ここにあらずなのか?
怖いのか?

俺は何にも
してやれない

車の揺れで
書類の束が
散らないように
手を添えること

それくらいしか
してやれない

それでもせめて
俺の手ぐらい
添えててやりたい

先生が
人心地なりと
つくまでは

なあ先生

種蒔いたのは
俺自身

芝生なんか
二度と再び
拝めなくても
岩と瓦礫と
ゴミくずだらけの
荒れ地に
たとえなったとしても
俺はいっこうに
へっちゃらだ

先生が
刈り取ってくれるんだろ?

それならたとえ
結果がどうあれ
ずっと変わらず
俺の庭だ

最後の責任は
俺がとるから
心配するな

だから先生

身勝手は
百も承知で
運命を
先生に預ける
預けたいんだ

世間の奴らは
いざ知らず
ことこの俺に
限って言うなら

先生でだめなら
ほかのどんな
弁護士だって
だめなんだ
絶対
だめに決まってる

先生の差配で
玉砕するなら
それも本望

だから任せる
生きるも死ぬも

いいだろ?

先生 着いたぞ
裁判所だ

俺たち
戦闘開始だな