弁護士に広げたかった大風呂敷
7 50秒の罰くらい
先生に完敗だ
いや俺は
先生に惚れてる
それをそうだと
素直に認める
勇気が湧かない
ばっかりに
「罪滅ぼしなら
金で払って
償ってくれ
それから辞めても
遅くない」
心にもない
嫌味を吐いた
「先生みたいな
変わり者
雇ってくれる
物好きなんか
俺のほかには
いやしないから
死ぬまでずっと
こき使ってやる
感謝しろ」
恩着せがましく
追い打ちかけた
要は先生
あんたがもう
俺の心の
まん真ん中に
居座ってて
解雇するだの
手放すだの
頼まれたって
無理ってことだ
それを素直に
そうだと言えりゃ
世話はない
背任の罪だ
裏切り者だと
さんざん拳を
振り上げて
下ろしあぐねて
大人げもなく
ごねてるだけだ
放っといてくれ
ただでさえ
悶々としてる最中に
電話なんか
かけてよこすな
「もう家だ」
携帯だからと
バレないはずの
ホラ吹いて
ドア開けたのが
運のつき
出会いがしらに
息飲んだ
よりにもよって
先生が
豆鉄砲食らった
鳩ぽっぽよろしく
真ん前に
つっ立ってた
ぐうの音も出ない
ばつの悪さを
一瞬で
一生分以上
味わった
自分の嘘の
白々しさに
耐えかねた
それにもまして
気丈に笑んで
即 背を向けた先生が
愛おしくて
痛々しくて
気がついたら
後ろ姿を
追っかけてた
ついた嘘の
報いと言うなら
ついでにもう一度
食らってやる
エレベーターで50秒
ばつの悪さに
耐えてやる
1階に
降りきるまでの50秒
先生にやるから
この俺を
裁いてみろ
こんな男は
もう懲りごりと
顔そむけるなら
そいつも一理
明日から
互いに
赤の他人に戻ろう
それとも万一
先生も俺に
気があるなら
無茶苦茶だらけの
こんな男と
腹くくろうって
度胸があるなら
50秒後に
イエスって
言ってくれないか?
本家本元の
裁判なんか
あの50秒に
比べた日にゃ
屁でもなかった
長い長い50秒
先生の審判を
針のむしろで
待つしかなかった50秒
1階で乗りこんできた
男たちには
チンプンカンプン
だったはず
でも
そんなことは
どうでもよくて
最初は
空耳かと思い
次はただ
半信半疑で
最後はどうしても
念を押したくて
傍目には
とんちんかんな
質問を
とんちんかんに
繰り返した
2度も3度も
問う俺に
はにかみながら
それでもイエスと
答え続ける
先生の声
永遠に
聞いていたかった
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳