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弁護士に広げたかった大風呂敷

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5 背任の罪



先生の
同居相手が
あの男だと
知った瞬間

死ぬほど
腹が立った
裏切った先生に
腹が立った
裏切られた自分に
腹が立った

同棲?
よりによって
訴訟相手の
弁護士と?

完璧な
背任罪だ

突拍子もない
ことにかけちゃあ
人後に落ちない
つもりだったが

さすがの俺も
飲み込めなくて
絶句した

今すぐにでも
先生の首根っこ
捕まえて

あの
天秤棒かついだ
女神の像の
真ん前にでも
突き出してやりたかった

弁解するなら
してみろと
口をきわめて
罵りながら

それ以上
何もできない
自分が惨めで
発狂しそうで

あのとき吐いた
罵詈雑言も
ろくすっぽ
覚えちゃいない

面従腹背の
下司な輩が
引きも切らない
この世の中で

先生は俺に
首尾一貫して
“面背腹従”

ああ言えば
こうふてくされ
一 言えば
十 突っ返す

でも真っ直ぐな
その心根に
無条件に
賭けてみたくて

女々しい
愚痴から
弱音から

一切合財
余すことなく
ぶちまけた俺が
バカだった

頭の先から
つま先まで
“面背腹従”の
かたまりに
俺には見えてた
先生は
単なる幻想だったのか?

あの晩
ビルの屋上で
ウイスキーを
ラッパ飲みした

手ひどい悪夢を
忘れるには
手っ取り早い
方法だった

この世で頼れる
最後の砦も
奪い取られた
みたいな気がして

シラフですら
俺はほとんど
廃人だった

人影もない
屋上の
ヘリポートの 
Hの文字の
まん真ん中に
ひっくり返って
夜風に吹かれて

飲んでは
酔って
酔っては
また飲んで
ソウルの夜空に
満天の星を見た

天下のソウルの
空にだぜ
傑作だろ?

瓶の中身は
乏しくなって
頭はすばらしく
朦朧として
そしたらなぜか
忽然と
思い当たった

最近 
俺の鼻先で
そういえば
目を閉じなくなった
やっと
笑顔を見せ始めたと
胸なでおろした
そのとたん

先生は
何か言いたげに
もぞもぞ
口ごもり始めたろ

後ろめたそうで
泣き出しそうで

俺に言わせりゃ
とても見られた
もんじゃなかった

訳も判らず
俺はただただ
じれったかった

そして
機は熟し
今日満ち満ちて

3人仲良く
思い出すのも
ヘドが出そうな
鉢合わせ

修羅場を去り際
悔しまぎれに
問いつめたっけ

こんな仕打ちを
食らわされるほど
俺が先生に
何かしたかと

そしたら先生は
言いかけて
途中でやめた

俺を睨んで
言葉を飲んだ
あの切羽詰まった
無言の顔で
先生が
言いたかったこと

それより何より
口から先に
生まれてきたような
先生が

ここしばらく
まったく
人が変わったみたいに
むっつり
黙りこくってたわけ

ウイスキーの
瓶を片手に
合点が行った

全部
見当がついたんだ