弁護士に広げたかった大風呂敷
4 なけなしの3文字
風呂敷の
報酬よこせ
1000ウォン分くらい
礼をしろと
からかってみたら
真に受けて
失敬にも
1000ウォン札
きっかり1枚
放ってよこした先生には
不思議と腹が
立たなかった
入院患者と知りながら
病室の外まで俺を
呼び出して
好物のフグ入りだから
人にやらずに
全部食べろと
毒が致死量
入ってると
手土産の
見舞いの粥を
放ってよこした
元悪妻の冗談には
笑いも途中で
引っ込んだのに
医者がこんこんと
諭しても
まったく耳を
貸さない俺に
誰が言ったら
聞くのかと
先生が呆れて
尋ねるから
誰が言っても
聞きたくないと
ぶっきらぼうに
答えたら
思ったとおりだ
予想どおりの返事だと
子どもみたいに
はしゃいでた
これじゃあまるで
モグラ叩きだ
俺がどんなに
どやしつけても
これ見よがしに
鬱陶しがっても
先生は
一瞬立てたその腹を
逆襲用の
ガソリンにして
エンジン全開
俺に向かって
体当たり
叩けど叩けど
別の穴から
しつこく顔出す
モグラ叩きの
モグラそのもの
でもその度に
俺がどれだけ
心地よく
そのモグラどもに
根負けしたか
なあ先生
自己弁護なんか
する気はないし
離婚の数だけ
理由もあろうが
どっちかの是が100%
どっちかの非が100%
そんな離婚って
この世にあるか?
あり得ないだろ?
ところがどっこい
先生にかかっちゃ
麗しくも冷酷な
そんな男女の
摂理なんぞは
まったくもって
お構いなし
雇われ弁護士の分際で
依頼人の
俺に向かって
さもぬけぬけと
言いやがる
「訴えられて当然よ
いいイメージの
言葉なんか
ただのひとつも
しっくり来ない
人だもん」と
いや正確には
「たった一つだけ
ピンと来た
なけなしの3文字を
除いたら
いいイメージの
言葉なんか
ひとつも
思い浮かばない」と
そこまで言われちゃ
訊くしかないだろ
先生が俺見て
ピンと来た
唯一なけなしの
3文字とやら
もともとが
金のほかには
誇れるものなど
何もない俺
金が惜しくて
離婚も拒む
血も涙もない
元亭主だと
今じゃ顔見りゃ
世間がこぞって
悪党呼ばわりする俺だ
先生の言う
唯一なけなしの
3文字とやらが
こんな俺にも
わずかに残った
存在価値を
もしかして
教えてくれや
しないかと
逃げ回る先生を
何度も何度も
せっついた
どうしても
訊いてみたかった
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳