弁護士に広げたかった大風呂敷
3 傘と風呂敷
先生を
雇って間もない
ころだった
いつだったか
職業倫理むき出しで
女だてらに
ヤクザ相手に
楯突いて
案の定
こてんぱんに
逆襲された
その度胸や良しと
褒めてやりたい
ところだが
たまたま俺は
居合わせて
まさか男が
知らんぷりして
「はい さよなら」とも
言いかねて
文字どおり
「風呂敷」よろしく
先生の上から
おっかぶさって
気がつけば
チンピラどもに
ボコボコに
やられる始末
かと思えば
ようやく気心
知れ出したころ
珍しく
意気消沈の先生を
気晴らしに
連れ出したのが
運のつき
し慣れない
親切なんか
するからだと
いまいましい
夕立見上げて
内心舌打ち
する端から
高い背広を
ダメにして
赤信号の交差点で
文字どおり
「風呂敷」よろしく
先生の頭に
おっかぶさった
いまいましいのを
通り越して
自分に呆れた
ああそうだ
夕立と言えば
妻だった女との
初対面こそ
突然の
夏の夕立ち
傘を
3分の1借りた
笑えるだろ
半分も
場所をとっちゃあ
申し訳ないって
この俺が
女物の
折り畳み傘3分の1で
縮こまってた
初対面
そして
6年が過ぎ
俺は目の前に
離婚届を
突きつけられた
言っとくが
先生の「風呂敷」に
なったのは
ほんとに偶然
下心なんて
まるでなかった
何でまた
依頼人の
この俺が
弁護士の窮地なんか
救ってやらなきゃ
ならないんだと
俺の方こそ
報酬もらって
しかるべきだと
ブツクサ言ってた
くらいだから
嘘じゃない
それなのに
重なったその偶然を
先生は
面白がり
有難がってくれたっけ
さはさりながら
礼まで言われちゃ
片腹痛い
女に借りた
傘3分の1
そんな借りさえ
返せないまま
離婚して
別の女の「風呂敷」に
たまたま
なってやったとて
褒められた義理じゃ
なかろうに
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳