弁護士に広げたかった大風呂敷
2 天秤を持った女神の前で
裁判所
何の因果で
こんなところに
縁なんか
天秤ばかりを
その手にかざして
俺を見下ろす
銅像さんよ
法の番人の
女神とやらは
あんたらしいな
かざした正義の天秤で
人間の正邪を
秤るんだってな?
博識だなんて
お世辞はいらない
うちの弁護士先生から
最近仕入れた
受け売りだ
あんたみたいに
目なんか開けてちゃ
秤りたくても
秤れないとか
秤ったところで
眉つばだとか
最近雇った
うちの弁護士先生は
ひとり何やら
禅問答して
俺の見ている
真ん前で
事あるごとに
ぎゅうっと固く
目をつぶってた
今思えば
秤られてたのは
他ならぬこの
俺自身
はたして俺は
天秤の上で
正義の分銅を
向こうに回して
いったい全体
釣り合うんだか
合わないんだか
少なくとも
先生が引き受けて
割が合うほど
俺がまっとうな
客じゃないのは
認めるとして
それ以前にだ
目の前に
大金積んでも
一顧だにせず
動じる気配も
ない先生を
金のほかには
誇れるものもない俺が
どうやって
釣ろうってんだ?
お手上げだ
軽すぎて
釣り合わなくて
天秤皿から
ずっこけ落ちるような
依頼人じゃあ
愛想尽かして
見放されても
文句なんか
言えないか
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳