弁護士に広げたかった大風呂敷
19 3回は訊け?
耐えて忍んで
1年たって
図々しく
予定通り
帰ってきた
先生が
何と言おうと
言うまいと
いや
いるはずの場所が
もぬけの殻なら
地球の裏まで
追いかけてでも
捕まえてやると
この1年
呪文みたいに
唱えつづけて
帰ってみれば
どうやら呪文が
効きすぎて
エレベーターを
待ってたホールで
あっけなく
感動きわまる
ご対面
地球の裏まで
捕まえに行く
手間は省けて
ありがたかったが
心臓は口から
飛び出しかけた
もう前みたいに
俺を秤ると
息巻いて
両目をぎゅうっと
つぶったりなんか
しそうもないな
一瞥たりとも
くれないで
意地でもそっぽを
睨みつけてる
悔しげな
赤いその目に
俺が先生に
無理やり強いた
1年を見た
「さすがに愛想も
尽き果てた?」
聞かなくたって
返事はわかる
半分自分に
言ったんだ
生まれて初めて
自分で自分の
得手勝手ぶりに
愛想が尽きて
しおれにしおれて
心の中で
先生に
ひたすら詫びた
だからって
このままあっさり
引き下がるほど
謙虚じゃないんだ
あきらめてくれ
この分じゃ
俺とまともに
口をきくまで
最低10日
あの懐かしい
笑顔を見るには
半月か
下手すりゃひと月
長期戦だと
深呼吸して
覚悟を決めて
半日後
何思ったか
先生が
はにかみながら
ふくれっ面で
つぶやいた
器用なもんだ
「愛想が尽きたか
尽きないか
3回くらいは
訊いてくれても
罰当たらないと
思うけど」
たった3度で
気がすむのかと
5日のはずが
丸々1年
なしのつぶてで
待たされて
積もり積もった
怨みつらみが
たった3度で
収まるのかと
からかって
やりたかった
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳