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弁護士に広げたかった大風呂敷

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20 達者な弁護



ここだけの話だが

男も恐れる
あの女丈夫の
お袋が

娘ほども
年の離れた
若い女の
言い分を

ああも素直に
黙って聞くのを
この年に
なるまで俺は
見たことがない

稀にみる
珍事だった

客観性も
証拠も皆無で
公の法廷なんかじゃ
まずまちがいなく
用をなさない
代物だけど

お袋の前で
先生が見せた
あの懐かしい
達者な弁護

言葉もないほど
面映ゆかった

俺のために
一言ひとこと
先生が
言葉を選んで
紡いでくれた

唐突で
素朴で雄弁
まるで
詩だった

荒唐無稽で
買いかぶってて
ああも堂々と
のろけた弁護

さすがにそこまで
期待するほど
俺もめでたい
男じゃないから

聞きながら
総身が縮んで
武者震いした

出逢ってこのかた
先生は
なんせ毎日
てんてこ舞いで

そりゃそうだろう

世間を敵に
回す覚悟で
因果な弁護を
背負った上に

その依頼人が
金の亡者で
癇癪持ちで
素行不良の
変人とくりゃ

どう転んでも
朝から晩まで
てんてこ舞いは
保証されてる

それでも毎日
飽きもせず

諭すはしから
慰めて
呆れるかたわら
励まして

むくれついでに
涙ぐみ
同情しながら
一喝し

あの忙しい
百面相の傍らで
いつ俺を
そんなふうに
眺めてたやら

望外の
被告人冥利に尽きた

抱いて墓まで
持っていきたい
先生の言葉が
また増えた