弁護士に広げたかった大風呂敷
13 弁当箱
八方塞がりの
どん底でも
人間
腹は減るらしい
何の気なしに
ひょいと開いた
ふたの中
先生作の弁当は
開けてびっくり
玉手箱
入ってたのは
先生手製の
札束なんだか
証文なんだか
1枚そして
また1枚と
めくるたんびに
視界が霞んで
目がしばたいた
よく手の込んだ
いたずらに
次から次へと
悪態ばかり
口ついた
いまどき
おもちゃの札束だって
これよりはるかに
よく出来てる
先生
今 何歳だ?
ずいぶんとまた
子どもじみた
小細工を
小学生の
甥っ子かなんかに
やろうとしたのを
間違えて
俺にくれたんじゃ
なかろうな?
それとも本気で
たかだかこんな
マジック書きの
ラブレターもどきの
紙切れで
俺を釣ろうって
魂胆なのか?
『一文無しの
あなたを見てると
助けてあげたい
そう思うけど
お金がないから
引け目に感じる』
『全財産と言ったって
スカンピンだし
何もないから
お金の代わりに
心を全部
あなたにあげる
私の大事な
風呂敷さん』
この期に及んで
自慢じゃないが
この世界じゃあ
少しは
名前の知れた俺
その俺が
持て余してる
負債の額を
如何ほどと
見積もったのかは
知らないが
俺の借金は
先生の心で
全部穴埋めできるって
踏んだ上での
オファーなんだな?
だとしたら
先生もまた
えらく大きく
出たもんだ
先生がくれる
心には
それだけの
価値があるって
言いたいんだな?
そこまで言うなら
もらってやる
後悔しないって
誓えるか?
返せったって
二度と
返してやらないぞ
悪態つくのは
十八番の中の
十八番のはずが
限界だ
俺はほんとに
イカれちまった
肩で風切って
歩いてた
怖いものなしの
守銭奴が
女ひとりに
こうも参るか
独りごちたら
眉間が痺れた
ついでに視界が
歪んで揺れた
世の半分は
男だろうが
これほどチャチで
子供だましの
弁当もらって
胸を突かれて
泡食う男も
そうそういまい
先生の心
という札束
残らず全部
俺にくれるという証文
そんなら俺は
億万長者だ
どこのどいつも
かなわない
世界一の
大富豪だ
俺が手にする
ことなんか
この世では
許されないと
諦めかけてた
先生の心
ほんとにいいのか?
もらっちまうぞ
もう返さんぞ
何てったって
この証文は
先生直筆なんだから
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳