弁護士に広げたかった大風呂敷
12 凹みに凹んで
なあ先生
とにかくどうにか
ならないか
毎度毎度
罪もなければ
屈託もない
その笑顔
脅しもすかしも
はったりも
意味が判って
ないんじゃないかと
疑いたくなる
天真爛漫
当の本人
知ってか知らずか
まったくもって
調子が狂う
仏頂面する
意気込みは失せ
肩落とす
力も萎える
喉元まで来た
揶揄悪態は
出鼻くじかれ
すごすご引っ込み
口ん中で
ブツブツ言うのが
関の山
そんなのは
まだましな方
金を愛し
金儲けに
これ邁進し
金となら
心中も厭わなかった
この俺が
近ごろじゃ
金と聞くだに
頭痛を催す
体たらく
始業前に
先生の顔を
拝んだ日にゃ
仕事にならん
お手上げだ
釈迦に説法は
承知の上だが
そもそもが
世に損害賠償なるものこそ
まさにこういう
ドツボの弱者の
救済のために
あるんじゃないのか?
なあ先生?
被害はこんなに
甚大なのに
先生を恨む
気力すら
みじんも湧かない
ところを見ると
どうやら俺も
誰かさんの
国宝級の脳天気に
相当感染してると見える
まちがいない
さはさりながら
どう転んでも
この先険しい
いばら道
先生を俺の
道連れにして
神様が
許してなんか
くれるだろうか
まったく
自信のジの字もない
なあ先生
自慢じゃないが
正直言って
今日 今現在
この俺が
人生最大に
凹んでるって
想像してみて
くれたりするか?
にっちもさっちも
行かなくなった
袋小路の
どん詰まりで
恥もプライドも
かなぐり捨てて
今さら
よりを戻したのかと
先生に
勘ぐられたって
文句も言えない
危険を承知で
金を貸して
もらえるならと
別れた妻に
頭を下げた
俺の気持ちを
これっぽっちくらい
察してみては
くれないか
それはそうと
何のつもりか
朝 置いてった
先生の弁当
できることなら
いっしょに食べて
ショボイの
下手だの
不味いだの
いつもみたいに
からかって
いつもみたいに
ふてくされる顔
見たかった
だけど
どうにも
ふた開けてみる
気力さえ
ないままとっくに
日も暮れた
すまん 先生
到底いつもの
俺じゃない
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳