弁護士に広げたかった大風呂敷
11 腕枕
手練手管も
正面突破も
拒まれたら
普通それを
“脈がない”って
言うんだろ先生?
そうだろ先生?
じゃあ
このしびれは
いったい何だ?
望みも捨てた
この期に及んで
肩から手先に
至るまで
俺の左の
腕全体が
しびれきってて
壊死寸前だ
涙のあとも
乾ききらない
誰かさんの
寝顔がのってて
感覚もない
待ってたことすら
忘れちまうほど
人を待たせた
挙げ句の果てに
しびれて痛けりゃ
目を覚ませ か?
先生得意の
冗談か?
物好きにも
ほどがある
今にも沈む泥船に
何が未練で
乗りに来た?
しぶしぶとは言え
務めた弁護
下った裁きが
哀れすぎると
同情したか?
湿っぽい
慰めだったら
御免こうむる
性に合わん
そんなことより
先生が今
腕枕させてる
男の境遇
あんたが誰より
詳しいはずだろ
裁判に負けた
一文無しだ
金と見れば
放っておかない
債権者やら
投資家どもが
連日連夜
押し寄せるんだ
我れ先に
あんたが今
のん気に頭を
のせてる男は
金と言う金に
がんじがらめに
縛られてるんだ
俺にはもう
先生を引き留める
金はない
金の切れ目が
何とやら
あんたを手放す
いい潮時かも
しれないな
先生まで
俺と一緒に
縛られちまう
筋合いなんか
これっぽっちも
ないんだからな
あんたを
思い切らなくちゃと
これでも頭は
もがいてるんだが
あんたのその
素っ頓狂さが
頼みもしない
元気をくれる
あんたのその
頑固で一途な
義理堅さに
励まされては
力が湧く
先生
俺はあんたに
がんじがらめだ
しびれた淡い感覚を
腕が未だに覚えてる
そのことだけでも
腹立たしいのに
「もうおしまいだ
これ以上引きずり込むな」
と諌める声と
「いや諦めない
地獄にだって
連れて行くんだ」
と言い張る声と
ここ何日
寝ても覚めても
真反対の
2つの声が
頭ん中で
怒鳴り合ってる
このままじゃ
気が狂っちまう
そう思った
瞬間だった
目の前に
先生
あんたが現れた
そしたら俺は
どうすればいい?
ただ黙って
見つめてるしか
ないじゃないか
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳