弁護士に広げたかった大風呂敷
10 待つという拷問
先生
梧柳洞(オリュドン)に
住む気はないか
無理強いなんか
する権利もない
してみたところで
うんと言わせる
自信もないが
弁護士と
その依頼人以外の顔で
ただの
男と女として
俺に
会ってくれようという
気はないか
昨日は屋上で
野宿した
先生を待ってたはずが
待ってもいない
朝が来た
誰かさんの
安請け合いを
真に受けて
ボロアパートの
屋上で
星を仰いで
ひとり悶々
俺が一夜を
明かしたなんて
誰かさんは
知りもしないのにだ
笑えるだろ?
待つってことは
褒美がもらえる
楽しい作業と
思ってたけど
ときには
むごい拷問にさえ
なるんだな
今の俺には
拷問だ
歯ぎしりするほど
耐えがたい
なあ先生
酒の肴に
あることないこと
噂したがる
世間の奴らに
あとどのくらい
義理立てしたら
俺の腕に
飛び込んで
来てくれるんだ?
そんなこと
死ぬまで
ありはしないのか?
俺は
風呂敷には
分不相応か?
俺の風呂敷は
小さすぎるか?
俺なんかの風呂敷じゃあ
包まれ心地が
良くないか?
女だてらに
家出だなんて
息巻いて
スーツケース2つも
転がして
昨日の夜は
どこ さ迷った?
安全な場所で
寝て起きたのか?
先生
あんたは
影みたいだ
そこにあるのに
手を伸ばすと
同じだけ
遠ざかる影
俺の風呂敷じゃあ
包みきれない
遠い影
作品名:弁護士に広げたかった大風呂敷 作家名:懐拳