連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話
「驚いたなぁ、お前。パソコンが得意だったなんて、初めて知った。
操作が出来るなら出来ると最初から、言ってくれよ。
俺がまるで、阿保みたいに見えるじゃないか」
「あら、言わなかったかしら。
私、短大の専攻は、情報処理だったのよ。
といっても、パソコンをつかって、集計ソフトを作ったり
エクセルを応用して簡単な家計簿を作る程度の、初期レベルですけどね」
「いや、実に見事な指のつかい方だ。
俺なんかいまだに、右手と左手の人差し指で操作しているというのに。
まるで魔法みたいな指さばきだな、響は。
しかしお前。見事な文章をかんたんに書きあげるなぁ・・・
紀行文や、小説なら、あっというまに書けそうなほどの文章力がある。
だいいち文章に艶(つや)がある」
「艶 ? 何なの、それ」
「うまく説明できないが、お前の文章には色気のようなものがある。
ネットでいろんな人の文章を読んでいると、この人は
何かが違うと感じる時が有る。
言葉の中に、ちゃんと気持ちが籠っている。
ドンぴしゃりという表現が、文章のあちこちに有る。
まるで、かゆい所に手が届く感じという感じで、読みやすい。
そんなとき俺は、文章から、何故か、艶みたいなものを感じるんだ。
お前の文章にも、そんな艶が有る。
もったいないな、お前。文才が有るというのに」
「ふぅ~ん・・・そんなものかしら。はじめて言われたわ。」
英治の言葉を聞き流しながら、響がポンとキーを叩く。
完成した感謝の文章を、返信メールとして相手側に送り出す。
「で、どうするの。この先は?。
茂伯父さんの手がかりらしきものは有ったけど、有力情報も、
メール待ちでは手詰まりですね。
無駄に歩きまわっても仕方がないし、果報は寝て待つとしましょうか?」
「待て待て、響。そうじゃねぇ。俺の話を最後まで聞け。
お前。自分でも気がついていないようだが、見る物や聞くものにたいして
鋭い感性が、人一倍働くようなところがある。
観察眼や、洞察力に、鋭いものを感じさせるときもある。
お前。もしかしたら、物が書ける人間のひとりかもしれないぞ。
あんな簡単に、感謝メールを書き上げるなんて、絶対にただ者じゃねぇ。
文章を書く仕事ができるかもしれないぞ、お前は」
「なにいってんの。
定型文に、ちょっとだけ感謝の気持ちを込めて書きあげただけの、
単なる社交辞令の文章です。
その程度のメールを打つ女の子なら、掃いて捨てるほどいるわ。
ああ・・・朝から歩き過ぎて、少し疲れました。
ひと眠りしますから、私にちょっかいなんか出さないでね。
あ。新しいメールが届いたら起こしてくださいな。
興味が有るので。
じゃ、そういうことでとりあえず、私は寝ます!」
そう宣言するなり響が、自分のベッドへ頭からジャンプする。
よほど疲れていたのか、毛布を頭から被るとスヤスヤと寝息を立てて、
早くも深い眠りに落ちていく。
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話 作家名:落合順平