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連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話

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 英治がノートパソコンを、開いて見せる。
そこには、石巻赤十字病院で働いている看護婦からのメールが届いている。
『もしかしたらですが』という、丁寧な但し書きがついている。
『同僚から、そんな話を聞いたような覚えがあります』と書き出している。

 東日本大震災で石巻市は、死者数 3,282名。
不明者 699人という甚大な被害を受けた。
市内にあったおおくの医療施設も、地震と津波で深刻な被害を受けた。
それでも医療関係者たちは、いち早く、ヘドロとがれきの中から立ちあがり、
必死の救護活動をはじめた。


 津波被害を免れた石巻赤十字病院は、医療活動の先頭に立った。
おおくの医療機関が診療不能に陥ってしまった状況の中、石巻市の医療を、
ほぼ全面的に支えた。
患者たちが続々と詰めかける中、石巻赤十字病院で働くスタッフ達は、
たくさんの生と死に、真正面から向き合った。

 震災発生直後の被災地では、水と食料が圧倒的に不足した。
ついで、感染症などの二次災害が広がりはじめる。
地域医療のとりでになった赤十字病院では、すべてのスタッフたちが、
被災者たちのために献身的に働いた。


 全国から集まってきた応援部隊と力をあわせて、衛生状態が悪化している
避難所の環境改善のために、地域を駆け回る。
津波の発生以降、地域医療の先頭に立った石巻赤十字病院には、7か月間で、
1万5000人にのぼる医師と看護師が、支援のために駆けつけた。



 「茂伯父さんの特徴を詳しく書いて、メールを送ってみたんだ。
 石巻周辺で医療に当たったNPOや、ボランティア団体、医療機関などへ、
 片っ端から、問い合わせのメールを発信した。
 原発で長く働いていたから、原発病の可能性もあると書き添えておいた。
 そしたら今朝、この返事が返ってきたんだ」


 文面には、たしかにそんな風な記述も有る。
だが英治へメールを送ってくれたのは、叔父と行きあった当の本人ではない。
震災直後に同じ赤十字病院で働いていた元同僚から、そんな話を聞いた
覚えがあるという文面だ。
『今その方と連絡を取っている最中です』と、メールが終わっている。


 「元同僚と言う意味は、いまは石巻日赤に居ないと言う意味だろう。
 でも、なんとか手掛かりにはなりそうなお話ですねぇ。
 連絡を取っていると書いて有るから、うまく、その元同僚が
 見つかるといいですねぇ。英治くん」


 「会ったこともない人から、こんな温かいメールが返ってくるんだ。
 有りがたいよなぁ、ネットってやつは。
 今まではゲームばっかりしていたが、パソコンがこんな風に役に立つとは、
 俺も今日まで、まったく考えてもいなかった」

 「文明の利器というのは、人間にとっては両刃の剣になるの。
 上手に使えば人の役にたつけど、使い道を誤れば、破滅の原因になる。
 よかったわねぇ、ゲームからようやく解放されて」


 「ちょっと貸して」と響が、キーボードに指を乗せる。
次の瞬間もう、発信者に向けて、お礼のメールを打ちはじめる。
流れるように画面に、文章が打ち込まれていく・・・
あっというまに、発信者へ謝礼の文章が書き上がる。
金髪の英治は画面を見つめたまま、ただ唖然としている。