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連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話

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 この光景は、3.11の津波を伝える映像として、繰り返し
何度もテレビで流された。
全国の人々に未曽有の被害の様子を伝えた、歴史に残る映像だ。
松尾芭蕉が訪れたこともあるという日和山は、石巻市内を一望できる
景勝地として知られている。
眼下を流れる北上川の河口から、広々とした太平洋が広がる。
天気が良い日には、牡鹿半島の他、遠く松島や蔵王連山まで見ることができる。


 響と英治が、北上川沿いを南に向かって歩きはじめる。
南側の斜面が、途切れるあたりまでやってきたときのことだ。
突然、前方の視界がひらけた。
目の前を遮るものがすべて消えて、海までの視界がひらけた。
荒れ果てた大地には、砂が混じっている。
建物の姿は一切無い。コンクリートの基礎部分だけを残してすべて消えている。
海に至るまで、雑草だけがはびこっている


 一年前まで、ここにはたくさんの住宅が建ちならんでいた。
ポツリと残った門柱や、赤く錆びついたコンクリートの残骸が、わずかに
人が住んでいた気配をしのばせる。
大地を覆い尽くしていた瓦礫は、綺麗に片付いている。
だが、どこをどう見回しても人の姿は見えない。


 日和山の南側には、海に向かう低地がひろがっていた。
あの日の大津波は、海岸沿いの低地を直撃した。
すべての建物と生活が、一瞬にして、根こそぎ消滅した。


 信号機が、根元からねじまがったまま倒壊している。
コンクリート製の電柱もぽっきりと折れ、鉄筋をむき出しにしたまま
大地に横たわっている。
石巻市民病院の建物が、大破したそのままの姿で残されている。
空き地には雑草が生え放題で、駐車場も土まみれで荒れたまま放置されている。
敷地の一部が大きく陥没している。
錆びた赤茶色の水が、池のように溜まっている。


 「英治・・・・瓦礫が片づけられただけで、ここはあの日のままだ。
 人の住んだ気配は、かすかに残っているけど、
 見えるのは、建物の基礎と、押し曲げられた電柱だけです。」

 「あの日。日和山からの津波の映像は、テレビで何度も放映された。
 ここから必死の思いで逃げた人たちは、いまは、仮設で
 ひっそりと暮らしている。
 瓦礫は片付いたが、次の暮らしのめどはまったく立っていない。
 ここだって、再建するための明確なビジョンが見つからないまま、
 こうして荒れたまま、放置されているんだ。」

 響の指先が、英治の右手にしっかりとすがりつく。
ピタリと身体を押しつける、
いつのまにか2人が、歩調を合わせて歩きはじめる。


 被災したクルマが、うずたかく積み上げられている一角に出た。
横転をしたままの救急車もある。多くが海から引き揚げられてきた車たちだ。
それぞれの車体に、引きあげた日時が書き込まれてある。
良く見ると、震災から半年以上もたった日付が書きこまれている車体も有る。
目の前に積み上がっている車の残骸は、地味でつらい仕事を、誰かが
コツコツおこなってきたことの証明だ。
そのことがそれぞれの車体に、日付としてしっかり刻み込まれている。
思わず響が立ち止まる。



 屋根がもげている車。窓ガラスが割れたままの車もある。
黒焦げの車や、ぺしゃんこにつぶれた車もある。
いちばん端に被災したスバル360が一台だけ、ぽつんと置かれている。