連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話
響の首へ、マフラーを2重に巻き付けていく。
さらにポケットから、温かそうな手袋を取り出す。
「ほら、これ。氷みたいな冷たい手をしているぞ、お前。
東北の寒さをなめるなよ。
それにしてもお前。ずいぶん可愛い顔をして眠るんだなぁ・・・・
夜中にトイレに起きた時、ふとのぞき込んで思わずドキッとしちまった。
よかったぜ。俺が、ビールを飲んで酔っ払っていたから」
「なんで酔っ払っているから、よかったの?・・・」
「俺、酔っ払っちまうと、まるっきり、あっちのほうは駄目になる。
だから昨夜は、お前さんの貞操は、完璧に安全だったのさ」
「あっきれた・・・・朝から何言ってんのさ。
あんたの頭の中には、『女とやりたい』という本能しかないようですね。
でも、そこが英治くんらしい部分かな。
うふふ。でもマフラーと手袋をありがとう。とても暖かい」
アーケードの商店街を、二人は肩を並べて歩き始める
朝が早いことも有り、ほとんどの商店のシャッターが閉じている。
所々にコンパネで、ウインドーをふさいでいる店舗も見える。
「場所を変えて営業しています」という貼り紙や、「震災の影響で休業中です」という
貼り紙を、至る所で見かける。
励ましの寄せ書きが、シャッターに張りだされている店もある。
アーケードを右に折れると、突然、飲み屋街のような一角があらわれる。
店舗はすべて閉まっているが、雑然とした気配が漂っている様子からみると
夜は、すべての店が営業している雰囲気がある。
「被災地の飲み屋街は、ある意味、復興バブルの真っ最中だ。
復興事業の最初は、多くが、瓦礫の片づけと家屋取り壊しの肉体労働だ。
身体自慢の屈強な男たちが、全国から集まってくる。
昼間は仕事で汗を流すが、日が暮れればとたんに暇になる。
用事がなくなれば、憂さ晴らしの酒と女をもとめて、
男たちが目の色を変える。
被災地の復興が進む前に、飲み屋街が先に復活をする。
男たちが遊ぶための歓楽街が、最初に復興するのさ」
(へぇ、そうなんだ。現地に来なければ、わからないことも有るんだ。
復興と言うのは表向きの、綺麗事だけでは進まない事業ですねぇ。
なるほど。表が有れば裏もあるという見本ですね)
説明を聴きながら、なぜか響が、人の温かさが恋しい気分になってきた。
思わず、英治に寄り添いたいような、危険な気分になって来た。
(あ。危ない、危ない・・・私が正気を失いかけている!)
路地にあるいくつかの空き店舗の中に、支援団体が活動しているような、
雰囲気の店がある。
(へぇぇ。支援団体の事務所みたいな雰囲気がありますねぇ。
昼間は会議をして、夜は、地元の人たちとここで一杯、呑むのかしら)
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第36話~40話 作家名:落合順平