小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

連載小説「六連星(むつらぼし)」第31話~35話

INDEX|9ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 地下の非常用電源が水没し、、燃料のオイルタンクが流失する。
この被害を受けて、ついに原子炉が、全ての電源を喪失することになる。
炉心を冷やすための非常用の冷却装置(ECCS)と、冷却水のすべての
循環系統も停止してしまう。
冷却用に使われている海水系のポンプは、地上にむきだしのまま
設置されている。
数度の津波の襲来は、むき出しのポンプを完全に破壊する。


 こうして1・2・3号機が、原子炉の危機的な状態を意味する
「電源喪失」の状態に陥る。
原子炉内の燃料棒を冷やすための、注水冷却を喪失する恐れが発生してくる。
東京電力はこの時点で、第1次の緊急事態を発令している。

 緊急事態が、政府や各自治体へ通告される。
しかし原子炉は、さらに危機的な状態へ突き進んでいく
15時45分。津波のために、電源用のオイルタンクの全てを失う。
16時36分。1号機と2号機において、冷却水の注水が不可能になったという
報告が、緊迫している対策本部に届く。


 同42分、3号機で、かろうじて非常用の炉心冷却装置のポンプが動くが
依然として原子炉は不安定なままで、危険な事態であることに変化はない。
津波による配電盤の冠水などで、さらに事態が悪化をする。
福島第一原発の対策本部の緊張は、ついに極限状態に達していく。

 構内でPHSが使えなくなり、1~4号機の状態がまったく把握できなくなる。
混とんとする中で、吉田所長の怒号だけが、マイクで原発内に響きわたる。
原子炉の水位の低下で、核燃料の露出の可能性が浮上してくる。
吉田所長が「作業に従事していない人は、大至急逃げろ」と最後の指示を出す。


 「原子炉の建屋が、すごいことになっている」

 午後7時過ぎ。原子炉建屋に白い蒸気が充満しているのを見た運転員から、
緊急の報告が対策本部に飛び込んでくる。


 「どうするんだ」「まさか爆発なんか、しないよな・・・・」

 最悪の事態を想定する関係者たちの顔に、一様に緊張の色がはしる。
「この原発は終わった。もう、東電も終わりだ」という想いが頭をよぎる。

 原子炉内の圧力を逃がすための、「ベント」作業の指示が、
東電の本店の、上層部から伝えられる。
放射能漏れによる高線量の下で、恐怖に耐えながら緊急の作業を担うため、
臨戦態勢が組まれていく。
免震重要棟の1階で、100人による出動隊が防護服を装着していく。

 「社員たちの鬼気迫った表情は、今も忘れられない。
死の危険にさらされて顔面蒼白で、言葉に出来ないほど全員が怖がっていた」

 3月11日の地震と大津波が去った後。
すべての電源を喪失した第一原発は炉心溶解の危険性を前にして、
想像を絶する放射能との闘いをはじめていた。
緊急事態の発生は、さらに大惨事に至るためのただのプロローグに過ぎない。

 原発の事故発生の当初。
被害の大きさは、国民に、正確に報道されていない。
福島第一原発が危険な状態だと伝えられただけで、拡散している放射能についての
危険性は、この時点ではまったく公にされていない。
想像をはるかに超えた被害の大きさは、この後に少しづつ、日を追うごとに、
小出しに国民に明らかにされていく・・・・