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人でなし(?)の世界にて

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『危険なので下がります!』
リポーターは、カメラマンと共に逃げ始める。必死に走るせいで、視聴者が酔ってしまうほど画面が激しく揺れる。少しすると、いくつもの悲鳴が聴こえてきた。リザードマンの大群が、バリケードを突破してしまったようだ……。
 そこで現場中継は終了し、先ほどの女性キャスターが画面に映る。彼女の表情は、先ほどよりも深刻そうであった。彼女が、今の空港封鎖の件をもう一度伝えているときに、スタッフが飛びこみニュースの紙を彼女の近くに置く。その紙を読んだ彼女は、こんなこと信じられないという表情を浮かべながら、
『……えー、今入ってきたニュースです。ある情報筋によりますよ、感染者の発生が伝えられたばかりの中国の上海にて、核爆発が起きた模様です……』
弱々しく伝えた……。
 おそらく、リザードマンの駆除やウィルスの除菌のために、自国に核兵器を使ったのだろう……。

 ――その後に伝えられるニュースも、暗いものばかりだった。世界中の国々が次々に、二次感染国の仲間入りを果たしていく。それを防ぐために、空港や港を閉鎖する国もあったが、もはや時間稼ぎにしかならなかった。大陸から離れた島々も、ウィルスを持った密航者のせいでやられていく。
 しかも、ウィルスに対抗するためのワクチン開発は、遅れてしまっているとのことだ……。リザードマンによる大混乱のせいもあるが、遺伝子組み換え食材が原因でウィルスが誕生してしまうとは、あまり考えられていなかったからだ。
 あまりにも暗いニュースばかりなので、アンドルーズは気が滅入ってしまった。情報は欲しいが、マイナス方向のものばかりだ。

 そこで彼は、パソコンからネットで情報収集をしてみることにした。不確かな情報に踊らされるかもしれないが、気分転換にもいいかもしれない。ネットにつながるかが不安だったが、まだ回線は生きていた。
 まず手始めに、ヒマなときに使っているSNSに入ってみた。そこは実名制のところなので、いい加減な情報に振り回される心配はまだ少ないだろうと思ったからだ。
 当然だが、SNSはリザードマン騒動のことで持ちきりだった。その話題一色なので、気分転換になるかどうかは微妙だが、目を通す価値はありそうだ。
 案の定、勇気だけはあるバカなヤツらが、リザードマンの死体をSUVで引きずり回したり、死にかけのリザードマンに犬をけしかけたりする動画を、意気揚々と自慢げに公開していた……。もしこれがリザードマンではなく、可愛げのある小動物だったとしたら、すぐに動物虐待だという非難の声があがることだろう。だが、リザードマンに対してなら大丈夫のようだ。
 しばらくネットサーフィンをした後で、アンドルーズはパソコンをオフにした。やはり信憑性の問題がある上に、気休め程度の情報しか得られないからだ。

 パソコンを閉じた途端、アンドルーズは退屈になった。彼は、地元の州軍に所属する軍人なので、休暇取消の出動命令がくるだろうと予想していたが、いつまでたってもこない。大混乱に陥っているせいか、彼が死んだと思われているかのどちらかだろう。
 ある意味幸運だといえるが、彼は退屈さが好きではなかった。