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人でなし(?)の世界にて

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「ジェシーは遅いな」
大統領は、先ほど用事を頼んだ女性秘書官が、いつまでたっても戻ってこないことに首をかしげていた。
「彼女なら、そこのトイレに駆け込んでいきましたよ」
報告を終えたばかりの若い男性軍人が、大統領に教える。
「それは知っているんだが、ずいぶん長くかかっているようでね。急ぎの用事を頼んでいたんだが」
「では、ちょっと様子を見てきます」
「ああ、頼む」
その制服組の軍人は、ジェシーという名前の女性秘書官が入っていったトイレへ向かう。

 機内にあるトイレはすべて、男女共用の個室式になっており、その女性秘書官が入ったトイレは、大統領執務室に1番近いところにあった。
「ジェシー! 具合でも悪いのかい?」
ドアを叩きながら呼びかける軍人。彼は、その女性秘書官とは顔見知りのようだ。
 しかし、トイレの中にいるはずの女性秘書官からの応答は無い。中から鍵がかけられているので、少なくともトイレの中に誰かがいるのは間違いない。
「ジェシー!!!」
軍人はもう一度呼びかけたのだが、同時に最悪の事態の予想した……。

 彼の予想内容とそれの回答は、次の瞬間に判明する。見事的中できたのだが、彼はその瞬間には死に絶えていた……。
「大統領!!! 離れてください!!!」
執務室にいた黒人の大柄なSPが、脇のホルスターから拳銃を抜く。大統領は席から立ち上がり、1歩下がった。
 あの軍人が的中させた最悪の事態とは、機内にリザードマンが出現するということであった……。感染を隠して機内に乗り込んでいた女性秘書官が、トイレの中でリザードマンと化したのだ……。
 そのリザードマンは、ドアをバラバラに破壊して、トイレから出てくる。女性用スーツだった布切れが、リザードマンの硬いウロコに引っかかっていた。
「ファック!!! こんなところにもヤツらが!!!」
SPは悪態をつきながら、リザードマンに拳銃を撃ちまくる。狭い機内の床を、空薬莢が転がっていく。乾いた銃声が、離れたコクピットにまで響き渡る。

 SPが放った銃弾すべてが、リザードマンに命中する。だが、9ミリの拳銃弾では、リザードマンにはほとんど効果が無かった。硬いウロコに跳ね返されてしまうのだ。銃弾は跳弾となって、機内を旅する。
 本当に偶然だが、そのうちの1発が大統領の左肩に命中してしまった……。大統領は突然の激痛に耐えきれず、左肩を押さえながらひざをつく。床の赤いじゅうたんが、流れ出た血でさらに赤く染まっていく。
「大統領!!!」
間接的とはいえ、大統領にケガを負わせてしまったSPは、大急ぎで大統領の元へ駆け寄る。