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人でなし(?)の世界にて

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 同時刻、この国の空に1機の飛行機が飛んでいた。
 4つのジェットエンジンがついているその飛行機には、この国の旗が大きくマーキングされており、政府専用機であることが見てとれる。護衛の軍用機の姿は無く、まるで空を当ても無く彷徨っているように見えた……。

「この州軍の空軍基地はどうだ?」
「ダメです。何度も試してみましたが、この基地とは連絡が取れません。……やられたようです」
「残りの燃料では、大西洋を越えられそうにない。燃料補給ができるなら、どんなローカル空港でもいい」
政府専用機の機内では、乗員が焦った様子で話し合っていた。燃料は残り少なく、もう長くは飛んでいられない。とにかく燃料補給が必要な状況なのだ。
 だが、リザードマンたちのせいで、あちこちの空港や軍事基地の飛行場が機能不全に陥ってしまっている。これでは危険すぎて、着陸などできない。まだ安全な空港は何か所かあったが、すでに備蓄燃料が底をついているとのことだ。
 乗員たちは困り果てて、頭を抱えていた。燃料切れがどんどん迫る。


 困り果てているのは乗員だけでなく、乗客も同じであった。その乗客のトップは、この国の大統領だ。初老の白人男性である大統領は、部下や軍人から次々と伝えられる暗い報告を、深刻な表情で聞いている。
 彼は、リザードマン問題に対し、当初は首都の大統領官邸で指揮を取っていた。しかし、官邸がリザードマンたちの襲撃を受けてしまい、間一髪のところで、近くの空港に駐機してあった政府専用機で脱出したのだ。機内には大統領執務室もあり、臨時の大統領官邸として機能している。
 衛星通信もできるので、ここからでも十分に指揮が取れるが、その指揮を受ける側はどんどん壊滅している。大半がすでに通信途絶の有様だ。軍隊は、全体的な指揮系統を失っており、各地の部隊がそれぞれ独自に行動を取らざるをえない状況に追い込まれている。統制を早く回復し、リザードマンに対抗できる態勢を整えなければ、この国の完全な崩壊は間違いなかった。
 だが、このひどい現状から考えると、もはや自国の努力だけでは、リザードマンに対抗することはできなかった。そこで大統領は、大国の長であるというプライドを脇に置いて、他国に協力を求めた。
「大統領、悪いニュースが2つあります」
ある部下が、数枚の書類を両手に持ち、大統領への報告を始めようとしていた。彼は、あまりの状況の悪さにうんざりした様子であった。
「やれやれ、良いニュースは無いのか……」
「ええ、残念ですが。まず、1つ目の悪いニュースは、イギリスが我々の協力要請を拒否したことです……。自国の防疫で忙しいからというのが理由ですが」
「シット!!! 二枚舌のイギリス人め! どうせ、心の中では大喜びしているに決まっている!」
「2つ目は、日本政府との連絡が事実上途絶えたことです」
「……事実上とは?」
「あの国は、二次感染発生国のうちの一国でしたが、首都を中心に感染が急激に進んでいました。他都市への通信はなんとか可能ですが、どいつもこいつも『担当者がいないのでコメントできない』の一点張りで、全然話にならないんです……」
部下は苦笑いしていた……。いつもなら笑える話だが、今の大統領に、そんな余裕は無かった。