人でなし(?)の世界にて
第8章 終幕
アンドルーズたちは、格納庫にある艦載機用エレベーターから甲板に上がることにした。
バリケードが築かれていたり、兵隊とリザードマンが激しい戦闘を繰り広げていたりして、なかなか甲板に向かえなかったからだ。エレベーターが使えるかどうかは運次第だったが、このままでは浸水にやられてしまう……。流れ込む水の重みのせいで、空母は少しずつ傾き始めていた。
……格納庫に入った途端、強烈な血の匂いが襲いかかる。格納庫内も他の場所と同じく、リザードマンの襲撃に遭っており、地獄絵図と化していた……。生き残っている人間は1人もおらず、ヤツらは死体を漁っている。
「エレベーターはあそこだわ」
キャサリンが指差す一角に、艦載機用エレベーターはあった。幸い、エレベーターはこの格納庫に降りていた。壊れている様子が無いことから、いつでも使えそうだ。
「よし! 急ごう!」
エレベーターに向かって走り出すアンドルーズたち。だが、彼らの目の前に、1匹のリザードマンが突然立ちはだかった……。
「ギャー!」
リザードマンたちのボスであるバーナードは、ジャマをするなと鳴く。
……ところが、そのリザードマンは動かない……。明らかに、バーナードに反抗していた。
そのリザードマンは、あの山のゲーテッドコミュニティのときにもいたヤツだった。どうやら、アンドルーズたちを見逃すことが気に入らないらしい。「なぜ人間なんかを助けるんだ?」という不満げな様子を見せている。
「ギャー!!!」
アンドルーズはそのリザードマンの目の前に立ち、大きな鳴き声で叫ぶ。だが、そいつは動こうとしない……。
それどころか、同じ不満を持っている他のリザードマンたちが、次々周囲に集まってきてしまった……。バーナードの権威が急降下しているのが、人間であるアンドルーズにもわかる。このままでは、アンドルーズとキャサリンは八つ裂きにされるだろう。
「ギャーーー!!!」
バーナードは、これまた大きな鳴き声をあげながら、目の前にいるリザードマンを殴った……。そいつは、突然の殴打に耐え切れず、右に倒れる。
「行け!!! ここで……食い止める!!!」
2人にそう促すバーナード。倒れたリザードマンが起き上がろうとしている。
アンドルーズとキャサリンは、急いでエレベーターに乗る。
「後からおまえも来るんだよな!?」
「……いやそれは……無理そうだ」
今の出来事がきっかけでバーナードは、リザードマンの一団のボスでなくなったようだ……。彼への敬意は、もはや敵意と化していた。
周囲にいたリザードマンたちすべてが、バーナードに襲いかかろうとしている。裏切り者には制裁をという不穏な雰囲気だ。
作品名:人でなし(?)の世界にて 作家名:やまさん