人でなし(?)の世界にて
そこへ近づくとともに、熱気を強く感じてくる。よほど人気のある試合なのだろう。アンドルーズの心は、久しぶりのエンターテイメントに少しずつ沸き立っていく。
スタジアムは、格納庫の一部分を使って築かれていた。
カーーン!!!
ゴングの鐘が鳴る音が格納庫に響く。すると、集まっていた人々は、熱狂の歓声をあげた。どうやら、格闘技の試合らしい。
{ボクシングの観戦なんて久しぶりだな}
アンドルーズとヒゲ男は、観客の中に加わる。座席は無いらしく、全員が立ち見だ。そのため、後からきたアンドルーズとヒゲ男は、人ゴミの中からの観戦となった。
ただ、なんとか苦労して、リングにいる「選手」の姿を確認できたのだが……。
「選手」は、人間とリザードマンであった……。間違いなく、本物のリザードマンだ……。
リングは、戦闘機などを分解した鋼材とコンクリートでしっかりと組まれており、高圧電流付きフェンスが取り囲んでいる。その上にはクレーンとそれに吊り下げられたコンテナがあり、ここからリザードマンをリング内に放ったようだ。
おまけに、その場の運営と警備は、兵士たちが取り仕切っていた……。そのデスマッチは、新大統領公認の娯楽というわけだ……。
そんなリングで、1人の人間と1匹のリザードマンが戦っていた。言うまでもなく、命を懸けた戦いだ……。
リザードマンと戦っているのは、アンドルーズよりも少し年下と思われる若い男だった……。男の表情は必死であった。
当然のことだが、リザードマンのほうが圧倒的に有利だ……。ハンデとして、男には鉄パイプが与えられているが、一撃でも喰らえば一巻の終わりだ。致命傷じゃなかったとしても、感染は免れない……。
「あの男は、他人の食べ物を盗んだらしいぜ」
ヒゲ男が言うには、戦っている男は罪人らしい。だが、持病のせいであまり働けず、支給される食べ物が減らされていたようだ……。
リザードマンと必死に戦っている持病男は、鉄パイプをひたすら振り回している。だが、持病のせいで動きは遅く、リザードマンは軽々とそれを避ける。
やがて、疲れた持病男は、重い鉄パイプを振り回すことをやめ、その場で激しく呼吸を繰り返す。やはり、病人にリザードマンを倒すことなど不可能だったのだ……。おまけに与えられた武器は銃ではなく、ただの鉄パイプだ。
……持病男の呼吸が落ち着くよりも前に、リザードマンは反撃に移る……。横一線に斬り裂く鋭いツメが、持病男の首を綺麗に刈り取られ、電流が走るフェンスに衝突する。そして、その生首は高圧電流により破裂した……。
作品名:人でなし(?)の世界にて 作家名:やまさん