人でなし(?)の世界にて
「……何はともあれ、諸君は幸運です! この船は世界一安全ですからね! あのトカゲどもは、ここまで来られません!」
アーノルドは、おまえたちが助かったのは自分のおかげだという口調で話す。名誉欲に取り憑かれているのだろうか。
アーノルドは、一同をじっくり見回す。人を見る目が自分には備わっているのだという態度だ。
彼は、キャサリンを見た途端、ピタリと目を止めた……。彼女は美女なので、男としてはとても気になるのだろう。魅力的な彼女のせいで、意識が完全に飛ぶ寸前に、アーノルドは我に返る。
そして、一同を軽く見回した後に、
「それでは彼に、皆さんの新しい家をご案内させましょう」
アンドルーズたちに笑顔で言ってみせた。
ただ、自分にはカリスマ性があるということを感じさせたいという口調であった……。
アーノルドたちは、自分たちの新しい家となった空母を案内してもらった。道中にわかったことだが、あのアーノルドはこの空母の艦長で、マッチョ男はその副官だったらしい。国家の指揮系統が崩壊し、この空母が単独行動に移ったころから、アーノルドは大統領を自称し始めたらしい。
新しい家案内の最後に、自分たちの新しい寝床へ連れていかれた。その場所は、ベッドが並ぶ居住区域ではなく、戦闘機などを保管する格納庫だったので、アンドルーズは嫌な予感しかしなかった……。
彼の予想は見事的中してしまった……。すぐ横にいるキャサリンは、顔をひきつらせている。
さすがに、戦闘機の上が寝床というわけではなかったが、冷たく固い床が寝床なのだ……。薄っぺらい毛布が、敷布団および掛布団として置いてあった。だが、枕すら無いので、ひどい寝心地であろう……。
寝床は数十人分あり、すでに多くの人々が寝泊まりしているらしいが、今は出払ってしまっており、一人もいなかった。だが、彼らの寝苦しそうな表情は容易に想像ができる……。
「ああ、お嬢さんはこちらです」
マッチョ男は、キャサリンにそう告げる。男女別に寝床を分けているようだ。
「あら嬉しい。ここよりはマシなのよね?」
キャサリンの表情がパッと明るくなる。
「ここよりひどいかもしれんぞ?」
「そんなわけないじゃない!」
アンドルーズの冷やかしを、彼女は即座に突き返す。
「ちょっとあなた、わたしも女性なんだけど?」
「どうぞこちらへ」
先ほどの老婆が自分も女性であることをアピールしたが、マッチョ男はスルーした……。
作品名:人でなし(?)の世界にて 作家名:やまさん