人でなし(?)の世界にて
「後でちゃんと見つけてやるからな、バーナード」
アンドルーズは、メインストリートから少し離れた路地裏を足早に進んでいた。彼はバーナード探しを中断して、自宅へ向かうことにした。少なくとも、あのメインストリートよりかは安全だ。それ以外の道路も、放置された車のせいで、まともに歩けたものではなかった。
だが、先ほどのメインストリートだけでなく、街中にリザードマンが溢れかえっていた。彼が今進んでいる路地裏にも、ヤツらが何匹か歩いており、あやうく見つかるところであった。
実は彼は軍人なので、人々をリザードマンたちから守れず、黙って見ていることしかできないのはつらいことであった。仕方なく逃げているのだが、それでも、見捨てたことに対する罪悪感が、彼にのしかかってしまう……。
中身をぶちまけているゴミ箱が、薄暗い路地裏に転がっており、そこに混ざっていたチラシに彼の目が止まった。
そのチラシは、今はガレキの山となっているペットショップのものであった。さらに、そのチラシは1か月以上も前のもので、そのペットショップは、このリザードマン騒動の発端となった場所のうちの1か所だった……。
アンドルーズが探しているバーナードはもちろん、リザードマンたちは元々人間であった……。だが、爬虫類用のペットフードに含まれていた遺伝子組み換え食品が原因で、人間がリザードマンと化してしまうウィルスが誕生してしまった……。ペットの体内で誕生したウィルスは、最初に飼い主やペットショップの店員に感染し、恐ろしいリザードマンにしてしまう。
そして、そのリザードマンは、周囲の人間に襲いかかり、ウィルスを二次感染させ、仲間をどんどん増やしていく……。さすがにバラバラ死体から変化することはなかったが、負傷だけして感染する者は多かった。
もちろん、リザードマンやウィルスに対する行動を政府は取っている。感染者を病院で隔離したり、アンドルーズたち軍隊にリザードマンを駆除させるといったことだ。だが、必死の努力もむなしく、あまり効果は無く、逆に弊害が頻発する有り様となった……。
弊害とは、感染者と非感染者との判別が難しいことによる過剰反応だ。リザードマン化するウィルスは、傷口からしか感染しないのだが、無知な人々は、ちょっとでもおかしい人間だとみると、感染者だとして無理やり隔離してしまうのだ……。
その結果、本来隔離するはずの感染者がそのままリザードマン化してしまい、非感染者は病院で無駄な時間を過ごすだけとなった。ただそれだけならいいほうで、運が悪い非感染者は問答無用で射殺されてしまう始末だ……。
そんな弊害の影で、リザードマンは急激に数を増やしていき、その結果、この街のような惨状となってしまった……。しかも、このような事態が起きているのは、この街だけのことではなく、問題のペットフードが出荷された全国各地で起きてしまっている……。出荷先ではない地域はもちろん、世界中に感染が広がるのは、もはや時間の問題であった……。
アンドルーズは、その場を後にする。ここから自宅まで、走ってあと30分ほどだ。彼は心の中で、リザードマンに遭遇してしまわないよう祈っていた。
作品名:人でなし(?)の世界にて 作家名:やまさん