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人でなし(?)の世界にて

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第1章 パンデミック



「まったくアイツめ。無茶しやがって……」

 その男は、倒れている棚の下から這い出てきた。カルテの束が、バサバサと棚から床に落ちていく。
「アイツ、どこに行ったんだ?」
彼はブツブツ呟き、光が差し込んでいるほうへ歩き出す。1歩踏み出すごとに、足元でパキパキと音が鳴る。
 彼が歩くタイルの床には、瓦礫と弾痕が無数に散りばめられていた……。ヒビ割れた床に足がつくと、チリが膝下の高さまで舞い上がる。

 彼の名前は、アンドルーズといった。彼はこの場所で、相次いで起きた2つの事件に巻き込まれてしまったばかりだ。1つは人間による虐殺事件で、もう1つはリザードマンと人間による戦闘であった……。
 リザードマンが戦っていた相手は、1つ目の虐殺事件の加害者連中だ。そして、そのリザードマンは、彼がアイツと呼ぶ元人間の男のことだった……。人間からリザードマンと化したその男は、バーナードという名前で、彼の親友であった。彼は、そのリザードマンを探していたのだ。

 アンドルーズが今いるのは、ある地方都市にある病院のロビーだ。ところが今は、激戦の跡地と化していた……。破壊されたロビーのあちこちに死体が放置されており、腐敗臭に釣られたハエたちがたかり始めている。
 男は、ときどき近寄ってくるハエを手で払いながら歩き続け、枠しか残っていない出入口のドアから外へ出た。

 薄暗い病院から、明るい昼間の外に出た途端、男は悪い予感が的中してしまったと、顔を歪ませた。病院の前には、この街のメインストリートが横切っているのだが、大惨劇が繰り広げられていたのだ……。
 元は人間だったリザードマンが、人々に襲いかかっていた……。それも1匹だけでなく、あちこちに何十匹もいる……。ヤツらは競い合うように、逃げ惑う人々を殺戮する。リザードマンの緑色のウロコは、血で赤く汚れていく。
 また、メインストリートの地面も、そこらじゅうが血で赤く染まっている。そして、新たに流れた血が、その上を厚塗りしていく。
 銃で戦う警察官の姿もあったが、あっという間にリザードマンたちに惨殺されてしまう。残念だが、ヤツらを退治してくれる正義の味方が現れる気配は無い……。

 身の危険を察知した彼は、すぐ近くに放置されていたトラックの陰に隠れる。そして、暴れているリザードマンたちの中に、バーナードらしきリザードマンがいないかどうかを探し始めた。
 しかし、どのリザードマンもすっかり人間離れした姿になっており、これでは探しようがなかった。
「クソ。今はあきらめたほうがいいかもしれないな」
リザードマンたちは、メインストリートにもう獲物が残っていないかを確認していた。どうやら、一人残らず皆殺しにしないと気が済まないようだ。このままここにいたら、アンドルーズはヤツらに見つかってしまうだろう。