愛されたがりや
あっ、そうだ?
私は、バッグから携帯を取り出した。
夏樹に連絡をしようと思った。
でも、時間を見るとまだ午前中。
夏樹は、きっと仕事中だろう。
それでも私は、夏樹の声が無性に聞きたくなった。
迷惑かな……。
と思ったけれど、指先が自然に動く。
以前、会社にいる時はマナーモードにしてあるから、と言っていたことを思い出したのだ。
なら、迷惑は掛からない。
それに、着信があれば折り返し電話がくるはず。
でも、もし夏樹から折り返しの連絡がきた時、私は電話に出られる状況にいるだろうか、とコール音を聞きながら考えた。
もしも夏樹が電話に出なかった時は、留守電にでもいれておけばいいか。
と思ってはみたものの、やはり夏樹の声が聞きたい、と思う諦めきれない自分がいる。
私は、何度か続けざまに電話をいれた。
案の定、夏樹は電話に出ることはなかった。
尚且(なおか)つ、故意に電話を切られてしまったのか、留守電にもならなかった。
夏樹の決意は堅かったのかと改めて痛感した。
淋しかった。
夏樹と付き合って3年。
それが、今の電話で全て否定されてしまった気がした。
楽しい想い出も、泣きながらケンカしたことも、お互いの仕事が忙しくて会えない日々が続き二人で淋しがった日のことも―――。
それらを思い返せばきりが無い。
良い想い出も、悪い想い出も、今の私にとっては全てが大切な想い出であり、永遠に忘れたくはない想い出。
いわば、宝物みたいなものなのだ。それなのに―――。
夏樹にとっては、単なる過去の出来事でしかないのだろうか……。
それとも、私が単に大袈裟すぎるだけなのだろうか……。