愛されたがりや
マンションを出て、すぐとんぼ返りとなって戻ってきてしまった部屋は、朝慌ただしく出て行った時のまま雑然としていた。
普通であれば、変わっていないことに安堵する。
でも、今はそれがイヤだった。
雑然とした、この部屋が―――。
未だ、重苦しい空気が漂う部屋。
それらは行き場所を失い、どんよりと澱(よど)みながら部屋のあちらこちらに居座り続ける。
まるで、自分の住処(すみか)だというように………。
私は窓を開け放ち、換気をした。
もやもやしたこの気持ちも、重苦しい空気も、全て払拭させたかった。
窓から、そよそよと生温かな外気が閉塞されていた部屋いっぱいに広がる。
と同時に、騒がしい雑音も届いた。
耳障りだった。
全てが煩(わずら)わしくて、何もかもが鬱陶(うっとう)しく思った。
だから、開け放った窓をすぐに閉めた。
それでも、微かに漏れる雑音。
普段ではあまり気にならない音が、今はとても不快に思えて仕方ない。
息苦しさが、私を襲う。軽い目眩を覚えた。
浅く息を吐き、私はいそいそと実家に帰る準備をする。
けれど、気が進まなかった。
出来れば帰りたくない。
でも、そうもいかない。
鬩(せめ)ぎ合う心と闘いながら、私は閉め切った窓を見上げ、もう一度息を吐いた。
そしてまた、意を決するように身体(からだ)を動かした。
実家に帰る準備は、いとも簡単に終えた。
といっても、実際そんなに長く実家に滞在することは考えていない。
父が亡くなったからといって、居心地の悪さは変わるまい。
そんな場所に長くいるつもりは、毛頭無かった。
それに、そんな時間があるなら私は夏樹のために費やしたい。
だって、そのことの方が今の私にはとても重要なことだから―――。