愛されたがりや
けれど、それよりももっと私を苦しめたのは、平たい文章を読み上げただけの言葉達が、感情を込めた言葉よりもすんなりと私の耳に入ってきたこと。
もう、これで夏樹と最後になるかもしれない、と思った。
もう二度と夏樹に会えなくなる、と―――。
私に背を向け、夏樹は無言のままドアへと吸い込まれていった。
遠ざかる背中に、私は父の背中を重ね合わせた。
ただ愛されたかっただけ……。
誰に?
父に?
いや、違う。
なら、誰に?
夏樹に?
そう、夏樹に。
そうだ。
きっと、そうだ。
夏樹だ。
私は、夏樹に愛されたい。
だから、こんな時に父の顔が出てくるなんてあり得ない。
不愉快だ。
そう思った私は、邪念を振り払うかのように、父の姿を掻き消す。
そして、夏樹の背中に向かって手を伸ばした。
今は、夏樹を捕まえなければ……。
夏樹を追わなければ……。
私は、一生後悔する。
だから今は、夏樹の背中を追うことが、私の使命―――。