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愛されたがりや

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財布片手にいつものコンビ二へと入ると、ちょうど昼休みの時間帯だったためサラリーマンやらOLやらで狭い店内はごった返していた。

そうだった。

ここは、帯広じゃないんだっけ……。

人口密度が都市部と田舎では違うことを知っているはずなのに、身体の欲求に負けて何も考えずここに来てしまったことを後悔した。

人ごみで目眩が振り返す。

しかし、今更部屋に戻る訳にもいかず、店が落ち着くまで立ち読みをしようと、普段は見ない週刊誌を手に取った。

どのくらいの時間が経ったのだろう。

気が付くと、あれほど出入りを繰り返しごった返していた店内は、今は数名になっていた。

つい週刊誌が面白くて、夢中で読んでいたらしい。

それも、おじさま方が喜ぶようなグラビア達が沢山載っているような雑誌まで見ていたのだから……。

あっ、時間!

そう呟いて、時計を探した。

別に急いでいる訳でもないのに、習性なのかつい時間を気にしてしまう。

そんな自分にふと笑ってしまった。

持っていた雑誌を元の場所に置き、私は店内を物色するかのように歩いた。

コンビ二というところは不思議だ。

見るもの全てが美味しく見える。

だから、無性に食べたいという訳でもないのに、つい手に取ってしまうのだから。

カゴを持たない両手には、抱えきれないほどの食品を手にしていた。

私は、それらを落とさないように慎重にレジへと持っていく。

「あれ〜、今日は休み〜?」

レジにいた顔馴染みの店長が声を掛けてきた。

「まあ……」

私は誤魔化すように笑って返事をした。

「いいな〜。僕も休みたいな〜」

屈託の無い笑顔を見せる店長。

私も、それにつられるように笑ってみせる。

でも、顔が引きつって上手く笑えなかった。

店長とは、私が札幌に越してきてからの付き合いになる。

マンションから程近い場所にあり、毎日通う内に自然に店長と話すようになったのだ。

ここに通い始めた当初、店長の不自然な語尾の伸ばし方や仕種に、私はおネェなのだと思っていた。

だからなのか、余計に親しみやすかったのかもしれない。

けれど、店長のおネェ疑惑は、単なる癖だと知ったのはつい最近だった。

父と変わらない歳の店長に、20歳年下の奥さんがいたのだ。

それも、店長には似つかわしくないほど綺麗な奥さんだと、バイトの男の子が教えてくれた。

でも、私は店長の奥さんらしき人物を一度も見たことがない。

事実かどうかは分からないけれど、ここに働いている人が言っているのだから、たぶん事実なのだろう。

それにもう一つ、ビックリさせられたことがある。

ある日、私がいつものようにコンビ二に行くと、店長は待ち構えていたかのように話し掛けてきた。

「ねぇねぇ〜、翔子ちゃ〜ん?ねぇ、ちょっと聞いてよ〜。僕にね、4人目の子供が生まれたのよぉ〜」

と顔をくちゃくちゃにして、嬉しそうに話しをしてきたのだ。

やはり、奥さんがいて、それもラブラブなのは間違いないらしい。

でも、子供が4人とは……。

少子化が進むなか、貴重な存在かもしれない。

「それより、翔子ちゃ〜ん?最近、顔見せなかったけど〜、何かあったの?」

あ……。

私は、やや考え

「夏休み取って、ちょっと実家に……」

と言葉を濁した。

父のことは伏せておきたかった。

店長のことだ。

父が亡くなった、と聞けば心配な顔を覗かせ私のために色々としてくれるに違いない。

「いいな〜、夏休みか〜。で、彼氏と〜?」

そう言って、年中真っ黒に焼けている顔をニヤニヤさせる。

「まさか〜。一人よ!」

と慌てて言った。

「あら、そうなの〜。残念……」

「な、なんで?」

「な、なんで〜?って……」

店長が、えっ?という顔をして、私の顔を見つめる。

夏樹のことを言いたかったのだろうか。

以前、夏樹と一緒によくここのコンビ二を利用していた。

けれど、ここ最近、いや半年ぐらい前だろうか、夏樹と一緒に買い物に来なくなっていた。

そのことについて、店長は何も聞こうとしなかったし、私も話さなかった。

もしかしたら、ずっと心配していたのだろうか。

私達が見つめ合っている間に、お客の出入りが激しくなってきた。

一人、二人、と私の後ろに列をなす。

「ねぇねぇ、店長?それより、レジレジ。お客さん、並んでるって」

「あら、やだ。ごめんなさ〜い」

と我に返ったように、店長は大真面目な顔でレジ打ちを始めた。

じゃ、またね。

店長に手を振って、コンビ二を後にした。

店長も、お客さんの手前事務的な言葉を私に言い、すぐさま次に並ぶお客のレジ打ちをし始めるのだった。





作品名:愛されたがりや 作家名:ミホ