愛されたがりや
自動改札機を通り抜け、見慣れた札幌駅の構内をざっと見渡し、もう一度息を吐く。
数時間前にいた街と比べても仕方のないことなのだけれど、人の多さに目眩がした。
少しの間札幌を離れただけなのに、人酔いをしてしまう自分に少し落胆する。
「早く、帰ろう……」
ため息交じりに呟き、スッキリしない気分のまま地下鉄に乗りマンションへと向かった。
久し振りの家は、何も変わらない姿で私を待っていた。
家の中が何も変わっていないことに安堵するも、やはり淋しさが募った。
夏樹が、この部屋に来た気配がないからだ。
当たり前か。
合鍵がないのだから、この部屋に入るすべがない。
けれど、もしかしたら、と思いたい。
慌てて、溜まった郵便物をチェックする。
でも、やっぱり夏樹からの手紙やメモなどはなかった。
とすると、このマンションには訪れてはいないのだろうか。
まさか。そんなはずはない。そうよ、まさかよ。夏樹に限って、そんなはずはない。
それに、いちいちメモを残すようなタイプでもないから、部屋に訪れた時、私が留守だと知ってそのまま帰ったのかもしれない。
そうよ。きっと、そうなのだ。
だとしたら、せっかく来てくれたのに悪いことをしてしまった。
そう思った、私は今夜にでも夏樹の部屋に行ってみようと思った。
本当なら、今すぐにでも夏樹のマンションに飛んで行きたい。
けれど、夏樹は会社にいるはずだから、今マンションに行ったとしても会うことは出来ない。
それに、今から待つといっても、まだ午前中。
この私でも、ちょっと酷過ぎる。
私は、家に帰ってきたという安堵感から、疲れがドッと押し寄せて全身が気だるくて動きたくなかった。
葬儀の疲れだろうか、それとも移動の疲れだろうか。
身体が異様なほど疲れている。
それなのに頭は冴えて横になっても眠れそうにもなかった。
よしっ!
そう自分に気合を入れ、勢い良く立ち上がる。
そして、澱(よど)んだ空気を一掃するために窓を開け放ち、荷物を簡単に片付け始めた。
溜まった洗濯物を洗濯機に放り込み、部屋に掃除機をかける。
身体は疲れていて重かった。
けれど、動くことを止められなかった。
何かに取り憑(つ)かれたように、私は部屋の隅々まで掃除をして綺麗にしていた。
掃除や洗濯が全て終わった頃、時間は既に正午を回っていた。
それなのに、お腹は空いていない。
しかし、無性にノドが渇いていた。
冷蔵庫は空っぽだということに気付き、仕方なく近くのコンビ二に行くことにした。