愛されたがりや
どうしてあの時、私は泣きそうになったのだろう。
どこにでもある他愛もない言葉だったのに、今まで我慢してきた悲しみが私の中から止め処無く溢れてきそうになった。
きっと、あのまま課長と話し続けていたら、私は泣いていたかもしれない。
声を上げ、大人気もなく大声で泣いていたかもしれない。
もしそうだったとしたら、課長はどうしただろう。
驚いて、慌てて電話を切っただろうか。
いや、あの課長のことだ。
そんなことはしないだろう。
もっと優しく声を掛けて慰めてくるに違いない。
我慢せずに、沢山泣きなさい。
その方が、ラクになるから、とか言って。
お節介な課長のことだから。
本当は、こういう時だからこそ素直に甘えてもいいのだろう。
本当は……。
でも、私はイヤだった。
誰にも甘えたくなかった。
夏樹以外の他人には。
夏樹にしか見せない顔を、それ以外で晒したくない。
いや、晒す訳にはいかない。
泣く時は夏樹の前だけ、って決めたの。
その方が、夏樹も喜ぶから。
だから、早く夏樹に会いたい。
会いたいよ―――。