愛されたがりや
台風の影響で、大雨の中初七日が執り行われた。
強風が吹き付け時々雷鳴も轟(とどろ)く、そんな日だった。
父の怒り、だろうか。
私は、そう思えて仕方なかった。
何故なら、父は昨日と同様に怒りの形相で私の元へとやってきたのだから。
逃げ惑う私から絶対に離れるものか、というように何故だか父は私に纏わり続ける。
蛇が獲物を捕獲するように、私を縛り付ける。
自由を奪うため。
私の邪魔をするために。
だから、今日も私は札幌には帰れない。
でなければ、こんなふうに私に嫌がらせをするはずがない。
自分の娘に向かって、こんなくだらない嫌がらせはしない、はず……。
それが、どうして……。
私が思っていた以上に、父の恨みは根深いものなのだろうか。
だから、平気で実の娘に向かって、腹いせの如く今まで積もり積もった恨みを晴らそうとしているのではないだろうか―――。
唸りを上げた強風が容赦なく街を襲う。
強風に交じり降ってきた雨が、横殴りになって窓ガラスに叩きつけていた。
空が苦しんでいる。
それは、まるで父が苦しんでいるようにも思えた。
もがき苦しみ、喘ぎを上げのたうちまわる、そんな姿が想像された。
けれど、それは私にも言えること。
夏樹に捨てられ、父には恨まれ、そんな状態で私は今どうしようもない痛みを抱えている。
この心情を、父親なら察してくれてもいいはずだ。
父親なら、親なら当たり前のことだ。
こんな傷心した娘を恨むんではなく、もっと無償の愛を私に示して欲しい。
もしそうであったのなら、私だってもっと素直になれていたかもしれない……。
初七日が何事もなく無事に終わった次の日、会社に連絡をした。
私は、課長に簡単な挨拶と会社に迷惑を掛けていることを詫び、そして台風の影響で札幌に帰れないのでもう少しだけ休みを貰いたい、とお願いをした。
課長は、勿論二つ返事で快諾してくれた。
課長の分かり切った返答に、何故だか分からないけれど物凄く嫌な気持ちになった。
やっぱり君も、なんだかんだ言ったって親思いじゃないか。
って思われたに違いない。
勝手な想像かもしれない。
でも私は、屈辱を味わった気分になった。
見られたくない物を見られてしまったような、弱みを握られてしまったような、腑に落ちない心はもやもやして気持ち悪かった。
気まずさを漂わせた会話は、勿論続かない。
用件を述べたあと他に話す言葉が見つからないまま、私はただただ電話を切る機会を窺(うかが)っていた。
これ以上課長と話す気はなかったからだ。
けれど、課長はなかなか電話を切ろうとはしない。
まだ何か私に対しての言葉を探しているようにも思う。
その前に、電話を切らなければ。
そう思った私は、早口で礼を述べさっさと電話を切ろうとした。
とその時、課長が優しく言葉を放つ。
気を落とさずに頑張れよ、と。
なんの変哲も無い言葉。
けれど、返事をしたつもりが声は出ていなかった。
不意の優しさは、暴力に近い。
気落ちしないように一生懸命気を張って頑張ってきたのに、それを一瞬にして脆くしてしまうのだから。
だから、返事をする代わりに課長に分かって貰えるように精一杯頷いてみた。
課長に伝わったかどうかは分からない。
それでも、頷いてみた。唇を噛み締め、零れ落ちそうになる涙を我慢しながら―――。