愛されたがりや
「何よ!いい加減にしてよ!」
「な、なんだよ……、いきなり……。人が、せっかく起こしに来てやってんのに……」
えっ……?
そう押し黙ったまま、私は見覚えのある顔を見つめた。
そこにいたのは父ではなく、真っ青な顔で怯える弟だった。
いつの間にか夜が明け、朝陽がカーテンの隙間から燦々(さんさん)と輝いて見えた。
あの恐ろしい形相をした父は夢だったらしい。
私は安堵した。
と同時に、怒りが込み上げる。
悶々とした、このどうしようもない怒りの感情。
その捌(は)け口を、未だ怯える弟へと向けた。
「いい加減にしてよ!なんで、あんたがここにいんのよ!」
「な、なんでって……。か、母さんが、ねぇちゃんを起こしてこいって言うから……。つうか、なんなんだよ……」
「それは、こっちのセリフでしょ?いきなりアンタが目の前に現れたら、ビックリするじゃないよ!マザコン!」
「んなの、今、関係ねぇ〜じゃんかよ。なんだよ!人がせっかく起こしに来てやったのにさ」
と言って、弟が慌てて部屋から出ていった。
なんだよ!って、それはこっちが言いたいよ。
なんだよ!本当に、なんだよ!お父さん……。
夢に父が現れたことに、私は苛立ちと恐怖がない交ぜとなって心が苦しくなった。
現れて欲しくなかった。
私の元に……。
今まで拒絶していた父が、帰ろうとする前夜に現れるだなんて。
これは偶然でもなんでもない。
単なる父の嫌がらせだ。
私と同様、父も私を恨んでいるのは間違いない。
それを決定づけるために、父はこの日を選び私の元に現れたのだから。
薄情な娘だ、と言わんばかりに―――。