愛されたがりや
―――翔子……。
翔子……。
うとうとしていた私は、どこからともなく聞こえてきた声に起こされる。
「んん……?誰?アタシ、今やっと眠ったところなの。だから、起こさないでよ」
目を瞑ったまま、不機嫌に言った。
そして、その声から背くように寝返りを打つ。
「翔子?起きなさい……」
朧気に聞こえた声は、今度は背中側からはっきりと聞こえた。
聞き覚えのある声。
その声に、身の毛がよだった。
お父さん……?
いや、違う。
そんなことはあるはずがない。
私は、今起きている。
間違いなく意識ははっきりしている。
もし父だとしたら、私は寝ていないとおかしい。
故人は夢枕に立つのだから。
それに、何よりも私は霊感が無い。
全く無いという訳ではないが、なんとなく気配を感じる程度であって、ましてや姿形を今まで見たこともないし、声も聞いた覚えもない。
だから、これは父ではない。
そう、父じゃない。
ならば、今の声は誰なのか?
もしかしたら兄かもしれない。
そうだ、きっと兄かもしれない。
歳を追うごとに兄は父に似てきている。
だとしたら―――。
「何、お兄ちゃん?こんな夜中に……」
そう言って、私は声がした方へと目をやった。
どうして私は振り向いたのだろう。
別に、振り向く必要はなかったのに。
「ねぇ?お兄ちゃん……?ねぇ?ってば……」
そう兄を呼んでみても、誰からも返答がないことに私は焦る。
視界は未だぼやけたまま。
しんと暗闇が重く伸(の)し掛かる。
「ねぇ?ちょっとってば……?」
はっきりし出した視界に、何やらふっと動くものが目に止まった。
仄(ほの)白(じろ)く発光したそれは、形を変えながら陽炎のようにゆらゆらと揺れる。
人影にも見えた。
けれど、見様によっては何かの模様にも見える。
言い様もない恐怖が襲う。
「お兄ちゃん?何してるの?ねぇ、ふざけないでよ!」
私は不安を振り払うように怒鳴った。
それでも、返答はない。
次第に暗闇にも慣れてきた目は、ふと目の前に姿を現した人影を捕らえた。
「―――えっ?だ、誰……?」
そう言って、私は息を飲んだ。