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愛されたがりや

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見覚えのある格好。

見覚えのある顔。

私は、それが誰だか知っている。

間違いなく知っていた。

―――お父さん……?

声にならない声で、私は呟いた。

どうして?

その言葉だけが頭の中でぐるぐると駆け巡る。

夢だろうか。

いや、夢ではない。

私は、ずっと起きていた。

だいぶ前から起きていた。

見えない影に怯え、戦っていた。

正体を暴こうと、懸命に戦っていた。

だから、これは夢じゃない。

そう、夢じゃない。

そして、私は後悔をしている。

こうやって起きていることを。

今更だけど、目を閉じて寝たふりをしてみる。

夢でありますように。

目の前に現れた影は、兄でありますように。

この際、兄じゃなくてもいい。

父以外の幽霊でも構わない。

父以外なら、もう誰でもいい。

だから、目を開けた時、父はいませんように。

何も、何もいませんように……。

そう願う愚かな自分。

全てにおいて、私は後悔をしていた。

父を恨み、父のせいにして生きてきた。

なのに、今父の影に怯えている。

そんな自分が一番情けない。

情けなくて、愚かすぎる……。

どのくらいの時間、私はこうしているのだろう。

長時間なのか、それとも数分のことなのだろうか。

静寂と暗闇が邪魔をして、感覚がおかしい。

おまけに、息苦しさで手足は痺れ感覚が麻痺してきた。

今まで正常に動いていた心臓も、激しく高鳴り時々痛みを与えてくる。

苦しい……。

このまま眠れたなら、どんなにラクだろう。

そう思っても、眠れそうにもない。

けれど、ずっとこうしている訳にもいかない。

そう思い、仕方なくゆっくりと目を開けた。

徐々に目が暗闇に慣れていく。

私は目だけを動かし、もう一度その場所に目をやった。

見間違いだったはずの影は、やはり見間違いようもない。

だって、紛れもなく父だったのだから。

その影は、微動だにせず未だ私を見つめ続ける。

それも、おぞましい形相で私を睨みつけていた。

「な、何よ!何か言いたいことがあれば、言えばいいじゃない。黙ってないでさっ!それとも、こんな薄情な娘には掛ける言葉はないから、代わりに私を怖がらせようとして現れたってわけ?ふんっ、くだらない。そんなんで私が驚くと思った?やめてくれない。迷惑なんだけど」

早口でまくし立てるように、私は言った。

父の手前、精一杯強がったつもりだった。

けれど、本当は怖かった。

怖くて、怖くて、その場から逃げ出したくてたまらなかった。

でも、出来なかった。

そうしたくても、身体が動かなかったのだ。

やはり、父は怒っていた。

だから、こんなにも恐ろしい形相で私を睨み続けている。

でなければ、いつまでも黙ったまま私を睨む訳がない。

こんなふうに……。




作品名:愛されたがりや 作家名:ミホ