愛されたがりや
明日、帰ろうと決めた私は、簡単に荷物をまとめた。
やっと、明日には夏樹のいる札幌に帰れる。
そう思ったら、安堵と不安が入り交じり、なんともいえない感情が溢れてきた。
兄の時とは違う感情。
いや、同じかもしれない。
同じ感情が、さっきの続きをしたがって出てきたのかもしれない。
私の意思とは関係なく……。
急に息苦しさを感じた。
思うように息が出来ない。
苦しい。
苦しくて、泣きたくなった。
なのに、泣けない。
涙を我慢している訳でもないのに、何故か泣きたい時に限って涙が出ないのだ。
私の性格と反映されているらしい。
素直になれない分、苦しみは増すばかり。
早くラクになりたい、と思う反面、まだラクになりたくない、と思う自分がいる。
あやふやな心。
もどかしさを引き摺り、私はこれからどこへ向かって歩いていくのだろうか……。
父が亡くなった日から今日まで、帯広では珍しく真夏日が続いていた。
夏だから、と言われればそうかもしれないが、夜も気温が下がらず蒸し暑いのは、ここでは稀(まれ)だ。
寒暖の差があるのが、北海道の夏なのだから。
当分、この暑さは続くかもしれない、と私は勝手に思った。
でなければ、こんなに晴れの日が続くのはおかしい。
普通であれば、故人の代わりに雨が降ってもおかしくないからだ。
現に、『涙雨』という語源がある。
それなのに、空はそんな気配も見せることなくカラッとした空気を漂わせた十勝晴れを見せていた。
だから、明日も、明後日も、そしてその次の日もずっと晴れ。
雨は、いらない。
寝苦しい夜は、今夜も続く。
外では、相も変わらず蝉やら蛙やら虫やらが、こんな夜中だというのに飽きもせず大合唱をしている。
特に今夜は、その鳴き声がうるさい。
気のせいかもしれない。
でも、一度気になってしまうとそう思えてどうしようもない。
苛立ちが募る。
だから、田舎はイヤだ。
車の騒音で慣れ親しんだ私は、以前まで聞き慣れていたその自然の騒音に煩(わずら)わしさを感じた。
私の睡眠を邪魔する暑さと耳障りな雑音。
どうにかこうにか眠ろうと、私は何度も寝返りを打った。
そのたびに、この苛立ちは明日になれば終わるのだ、と思うようにした。
気を紛らわすために。
明日になれば、夏樹に会える。
明日になれば、会えるから。
明日になれば―――。