愛されたがりや
昨日、突然、彼氏である夏樹から別れを告げられた。
それは、本当に突然のことだった。
話しがあるんだ。
と言って、夏樹が大真面目な顔をして私の部屋に現れた。
いつもとは違った様子に、私は緊張した。
夏樹と付き合って、3年。
一つ年上である夏樹と私は、世間でいう結婚適齢期にあたる年齢。
だから、もしかしてもしかすると?なんて、想像を膨らませ勝手に盛り上がっていた。
なのに、違った。
天国から一気に地獄に突き落とされた感じ、と言っても言い過ぎじゃない。
だって、夏樹に別れ話を告げられた時、私は計り知れないダメージをこの躰と心に受けたのだから。
そのあとのことは、うろ覚えであまりよく覚えていない。
ただ覚えていることといったら、決意を固めた瞳で
「翔子と別れたい」
とだけ終始繰り返す夏樹の無表情の顔と抑揚のない言葉だけ。
それが、今でも脳裏に残っている。
別れを決めた夏樹。
別れたくない私。
気持ちがすれ違った二人の話し合いは、勿論成立はしない。
けれど、夏樹の心は醒めたまま。
私から離れつつある。
それを取り戻すには、やはり自分の心内(こころうち)を訴えるしかない。
そう思った私は、
絶対にイヤッ!別れない!別れたくない!
と駄々っ子みたいに、涙ながらに訴えることにした。
だって、別れたくないから。
だから、必死になって夏樹に分かって貰えるように足に縋(すが)りつき泣き喚いた。
そんなことを続けていくうちに、私は次第にヒートアップしていった。
もう自分を抑えきれなくなっていたのだ。
興奮が、更に私を掻き立てた。
なりふり構わぬ姿を晒し、夏樹に詰め寄っては平気で汚い言葉を吐き捨てて罵っていたのだから。
錯乱状態で喚(わめ)き散らし、夏樹に意味不明な言葉をぶつける、醜(みにく)い私。
ブスな私が、そこにいた―――。
夏樹は、そんな私をただただ見つめて憐(あわ)れんだ顔をしたのを朧気(おぼろげ)に覚えている。
出来れば、そんな顔は見たくなかった。
けれど、夏樹にそんな顔をさせたのは、紛れもなくこの私。
惨めだった。
あまりにも惨めすぎた。
なのに、やめられない。夏樹に縋りつくことを―――。