愛されたがりや
そんなくだらないことを考えるたび、目が冴え、頭が冴え、身体が冴え、次第に眠気もなくなっていく。
寝返りを打つたび、父の遺影が視界に入る。
戦慄が走った。
と同時に、そんなことで怯える自分に腹が立つ。
けれど、やっぱり怖い。
怖いものは怖いのだ。
死んでしまった父が。
黒い額縁に入れられ、真面目な顔をしている父。
生真面目すぎて、神経質すぎるその顔が、なんとなく怒っているようにも思う。
ただの思い過ごし、だろうか。
薄暗い部屋で見るから、そう感じてしまうのだろうか。
そうだ。
絶対、そうだ。
私の、ただの思い過ごし。
だから、真っ直ぐ見据えた父の目が私を見たような気がするのも、真一文字に結んだ口が開いたような気がするのも、全て、私の気のせいなのだ。
だから……。
と無理に思い込もうとするも、やっぱり怖かった。
怖くて、怖くて、仕方がない。
どうしても……。
父の遺影に背を向け、私は目を閉じた。
けれど、眠れない。
眠れる気がしなかった。
妄想が私の睡眠を妨げる。
目を開けていても、目を閉じていても、ヘンなことを考えてしまう。
考えないようにすればするほど、神経は昂ぶり過剰に反応し続ける。
どこかで軋(きし)む音が聞こえれば、父が来たのかもしれない、とか、今私が寝ているところは、数時間前まで父が寝ていた、とか……。
過敏になりすぎるほど敏感になって、気が昂ぶっていった。
もう、ダメだ……。
寝れない。
やっぱ、光恵さんと一緒に寝れば良かったかな……。
父の顔が視界に入るたび、ここに一人で寝たことを後悔した。
しかし、その後悔は一瞬で打ち消された。
突如、恐怖よりももっと途轍(とてつ)もない不安が、私に襲い掛かってきたのだ。
そしてそれは、私の心に鋭利な刃物で刺したような鋭い痛みを生じさせた。
夏樹と連絡が取れない不安。
夏樹と会えない不安。
夏樹がそばにいない不安。
それらの不安は、私に切ない痛みを与え続けた。
父に生じた恐怖を一瞬にして掻き消してしまうような、そんな威力で私を襲うのだ。
そしてそれは、私に小さな勇気を与えることとなった。
父の恐怖から私を救ってくれた不安は、私に小さな痛みを与えながら私を励まし続ける。
大丈夫だよ、と。
今日こそは、今度こそは、携帯が繋がるかもしれないから諦めるな、と。
私に信じる力を与えてくれた。
だから、私もその痛みを素直に受け入れる。
痛みがある限り、大丈夫と、頑張れると、思えるから。
もし、今日連絡がつかないとしても、また明日があるから、と。
そうやって、99%ダメだとしても、まだある1%の可能性を信じることにする。
そう信じることで、私は救われる。
また夏樹に電話をしよう、という勇気が沸く。
たとえそれが繋がらなくてもいい。
コールが鳴っている間は、その間だけは唯一夏樹と繋がっていられる時間だから。
それだけでも、私は幸せ。
それだけで、私は幸せなのだ……。
だから――――。
夏樹……、早く会いたいよ……。