愛されたがりや
携帯を握り締めたまま、私は深い眠りに落ちた。
その間、私は夢を見ていたような気がする。
でも、それは朧気であまりよく覚えていない。
夏樹が夢に出てきたような気もするし、兄や弟かもしれないし、見ず知らずの男だったのかもしれない。
曖昧な記憶は、思い出すたび、いや待てよ。
もしかしたら父だったのでは……?
と、思わざるを得ない場面がちらほらと断片的に姿を現しては、私を苦しめた。
スッキリとしない朝だった。
窓越しから空を見上げると、雲ひとつない青空が天高く広がっていた。
ふと、父の遺影を見やった。
見慣れた父の顔。
昨夜、怖く見えた父の顔は、今はそんな姿を見せずにただただ黙って前を見つめていた。
あれだけ怖く思えた写真は、私の単なる思い過ごしだったらしい。
やっぱり、気のせいか。
良かった……。
そう呟き、胸を撫で下ろした。
そして、また空を見上げた。
四十九日を過ぎれば、父は私の手の届かない空よりももっと向こうの世界に行ってしまう。
そうしたら、もうそんなくだらないことは思わなくなるだろう。
全て、幻の如く消えていくのだから。
父も、父の背中も、父の面影も、父そのものが遠ざかり、やがて姿を消していく。
父という存在は、もうこの世にはいない。
跡形もなくなって、この世から消えていく。
それが、別れ。
それこそが、別れなのだ。
父のいない世界を、少しだけ想像してみた。
もう父がいないのだから、そんなことをしなくてもいいのだけれど、何故だか無性にそうしたかった。
父のいない世界―――。
それは、明るい?
それとも、暗い?
目を瞑り、想像する。
けれど、分からなかった。
明るいのか、暗いのか、そんな簡単なことすらも思い浮かばない。
それだけ、父の存在が大きすぎたということなのか。
いや、違う。
そんなこと、ある訳がない。
父の存在が大きいだなんて、認めたくないし、認めない。
そうだ、きっと私の想像力が乏しいだけ。
だから、何も思い浮かばないのだ。
父のいない未来を思うことより、愛する夏樹との未来が心配で、今は何も考えられないだけ。
そう、何も。
だから、父のいない未来とか世界とか、今はどうでもいい話なのだ。
大切なのは、夏樹との未来。私達二人の未来。それだけ―――。