愛されたがりや
なんとなく帰りそびれた私は、今日一日だけ我慢することにして父がいるかもしれないこの仏間に一人寝ることにした。
光恵さんが気遣って、
「良かったら、私も一緒に寝ようか?」
と言ってくれたのだが、私はそれを断った。
その私の態度が、弟には気に食わなかったらしく、
「ねぇちゃんって、人の気持ちってもんが分からないんだな」
と言われたが、光恵さんが嫌い、とか、困らせたい、とかの理由じゃないし、もしそんな理由で一緒に寝ることを拒否したなら、自分がくだらなすぎて自嘲する。
私はただ、夏樹と連絡を取りたいだけ。
暫くの間、途絶えていた連絡を取り合って、夏樹と気兼ねなく話したいだけ。
だから、もし夜中に夏樹と電話が繋がった時、嬉しくって長電話をしてしまうかもしれないし、泣いて取り乱すかもしれない。
そんな姿を、たとえ義理の姉になる人とはいえ晒すわけにもいかないだろうし、その前にその行為自体が出来なくなる可能性だってある。
そうなると、ここで一人寝た方がいいだろう、という結論に至ったのだ。
けれど、本当は怖かった。
怖くて、怖くて、光恵さんの言葉に一瞬甘えようかとも思ったくらい、怖かった。
真夜中に父が現れるかもしれない。
幽霊の父が私の前に現れ、恨みつらみを言うかもしない。
いや、それならまだいい。
もしかすると、私も父のいる『あの世』に連れて行かれるかもしれない、と―――。
私の思い過ごしだろうか。
けれど、死後50日間はこの世にとどまるといわれる。
夜な夜な誰かの夢枕に立っては、最後の挨拶回りをする、と。
だとしたら、私の元にも現れるのだろうか。
最後の挨拶をしに。
こんな薄情な娘の元に。
父は来るのだろうか……。
いや、来ないだろう。
私が父を恨んでいるように、父もきっと私のことを恨んでいる。
だから、父を省(かえり)みなかった私の元になんかくるはずがない。
そう、来るはずがない。
もしこんな娘の元に、父が現れるとしたら、それは―――。
そう考えると、言い様もない恐怖が襲った。
身内だというのに、縁もゆかりもない幽霊に出会ってしまったような、そんな恐怖感を抱いた。
出来れば、現れては欲しくない。
もう二度と、いや、永遠に父とは会いたくない。
だから―――。