愛されたがりや
二階に上がり、以前は私の部屋に荷物を置いた。
やはり、私が使っていた部屋はない。
弟が、我が物顔で使っていたのだ。
きったねぇ〜。
と呟き、軽く息を吐いた。
男だから仕方がないとは思うが、やはりもっと綺麗に使って欲しい、と姉である私は願う。
まっ、別にそう思っただけで、私にはもう関係のないことだろうけれど………。
束の間の想い出に浸った私は、また皆のいるリビングへと戻ることにした。
気が重かった。
出来るなら、ここで少し休みたい、とも思うがそうもいかないだろう。
叔母がまた気を利かせて、私を探さないとも限らない。
あ〜ぁ……、とため息を吐き、重い足取りで一階へと向かう。
読経は終わって、住職が「では、また」と言い、玄関に向かうところだった。
帰っていく住職に、皆一様に深々と頭を下げる。
そして、その住職を追うようにして母と弟が玄関から出ていくのを、私はただただ眺めていた。
「翔子ちゃん、何しているの?さぁ、早くお父さんの顔を見て上げなさい」
叔母が親切心からか、またお節介にもそこに佇む私に声を掛けてきた。
「あっ……?はあ……」
「さあ、翔子ちゃん。叔母さんも一緒に行って上げるから、大丈夫よ」
と言って、叔母が私の背中を擦る。
叔母は、私がなかなか父のそばに寄り付かないことに、未だ父の死を受け入れることの出来ない可哀想な娘、と勘違いをしたのだろう。
本当は、夏樹との別れ話が受け入れられず打ち拉(ひし)ぐ私、なのだが……。
けれど、そうでないにしろ私は暫くの間、父を亡くした可哀想な娘、と演技をしなくてはならない。
夏樹に別れを告げられた可哀想な私、ではなく、父を亡くした可哀想な娘―――。
悲しみは、夏樹との別れの方が数倍大きい。
それなのに、その悲しみを使って私はこれからの数日間父の死を惜しまなければならない。
その腑に落ちない現実に、ただただ怒りを覚えるも、世間体上それも致し方のないこと、と無理矢理感情を押し込める。
今だけ。
今だけ我慢すれば……。
と、自分を納得させた。