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新撰組異聞__時代 【前編】

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 市谷甲良屋敷の試衛館は、この日も朝から稽古の音が響く。
 「助かったぜ。今日は沖田もいない」
 「そういやぁ、若先生もいないな」
 「お前ら、さぼれるなんて思っちゃいないよな?」
 「あれ、藤堂さんいたんですか?」
 「いちゃ悪いか?総司に、頼まれたんだよ。ま、居候させて貰ってるし、文句は言えないが」
 藤堂平助___後の新撰組八番隊組長は、めんどくさそうに頭を掻く。
 『暇でしょ?』
 総司は、そう云ってにっこり笑っていた。若先生に呼ばれたので、代わりに稽古をお願いしますというのだ。笑顔でいいながら、嫌味は忘れない。
 事実そうなのだが、相手が総司だと反論できなくなるのは何故だろう。
 ___策士め。
 上手く逆手にとられて、藤堂は木刀を手に取った。
 「お待たせしました」
 「稽古は?」
 「藤堂さんにお願いしました」
 「それは安心だな」
 「ええ、北辰一刀流を学んだ人ですから」
 総司が、にっこりと笑む。
 試衛館の門下生たちが、今頃悲鳴をあげて青ざめているなど、彼は知らない。
 「で、トシ。大事な話とは?」
 勇と総司の目が、歳三に注がれる。そしてそれは驚きに変わった。